拍手SS/企画SS

□手をつないで
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拍手感謝SS『手をつないで』





そろそろ帰ろう。

そう思ったところで申し合わせたように雨が降り始めた。

しかも土砂降りである。

斎藤は小さく舌打ちして空を見上げた。

夜から朝へと。
闇色の空に光が差し始める美しい瞬間は、この曇天のせいで見ることはかなわないだろう。

――いつまでもこうしているわけにもいくまい。死番明けで疲れているのだ。

斎藤は大きな溜め息を吐いて、滝のようにさえ見える雨の中へ足を踏み出した。

――そのとき。

ばしゃばしゃと何かが向こうから駆けて来るのに気付いて斎藤は目をすがめた。

小さな影。
大きな蛇の目を差して水溜まりを踏みながら、脇目もふらずにこちらに向かって駆けて来るのは。――鈴花だった。

斎藤はその姿を目にして思わず口許を緩ませた。

「斎藤さん!」

息を切らせてこちらに走り寄る愛しい少女に知らず心が安らぐのを感じた。

「……斎藤さん。」

にこりと微笑みながら、斎藤を見上げるその瞳に浮かぶ安堵。

この雨の中をあれだけ走れば蛇の目も意味を為さない。

栗色の髪も、袴も、何もかもがびしょ濡れだった。

斎藤の胸に愛しさが込み上げてくる。

鈴花の頬に手を伸ばして斎藤はぽつりと呟いた。

「馬鹿だな」

もっと他に言い様もあるだろうという斎藤の台詞に、しかし鈴花は慣れているのかただ小さく笑って……その手にそっと頬を寄せた。

温もりを確かめるように。

「心配したんですよ」

そう言って斎藤をほんの少しだけ恨めしそうに見上げる鈴花に斎藤は笑みを零した。

「……ああ、すまない」
「斎藤さんだけ帰ってこないんだもの……何かあったんじゃないかって本当に心配したんですよ」

そう言って鈴花は口を尖らせた。

きっと斎藤は知らないのだ。

斎藤が死番のたびに自分がどれだけ不安な思いをしているかなど。

きっと知らないのだ。

今晩だって斎藤だけが屯所に戻らなくて胸が潰れるような思いをしたというのに。

無事を確認できたせいもあるのだろう。鈴花はだんだん本気で腹が立ってきた。

「……一人で何をしていたんですか」

若干頬をふくらませながら尋ねる鈴花に斎藤はすこしだけ視線を上に逸らす。

「……さあ……別に…何も」

何となくまっすぐ屯所に帰りたくなかっただけだ。朝焼けを見たいと思ったような気もするが、さして特別な理由があるわけではなかった。

ぼんやりとした斎藤の返答に鈴花はますます頬をふくらませて斎藤から顔を逸らせた。

むくれてそっぽを向いてしまった鈴花の様子に斎藤は困ったように笑った。

「すまなかった」と小さく呟きながら鈴花の顔を自分の方に向けさせると、その額に軽く口を寄せた。

それだけで火を吹きそうなほど真っ赤に頬を染めた鈴花の目をのぞきこんで斎藤は、

「心配してくれるのは有り難いが」

と言った。
微かに笑みを刻んで、けれどまっすぐに鈴花を見つめたまま、言葉を続ける。

「俺は大丈夫だ」

小さく息継ぎをして、最後の一言。

「お前がいる限り俺は死なない」

鈴花は呆気に取られて、言葉を無くした。

――どこに根拠があるのか分からないが斎藤は自信たっぷりである。

嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で思わず笑ってしまった鈴花に斎藤は手を差し出した。

いつの間にか雨は小降りに落ち着いて、鉛色の空からかすかに晴れ間がのぞいている。

「帰るぞ」

差し出された手をそっと握ると、きゅっと強く握り返される。

霧雨の中、ふたり肩を並べて。

さあ、帰ろう。

――手をつないで。



〜END〜

拍手ありがとうございました〜♪

何のことはないんですが、雨の中相合い傘をする二人を急に書きたくなって。

執筆時間二時間……(笑)
猛スピードで書上げました。

そんなにほのぼのとしたお話にもなってない気がしますが、目指したものは『ほのぼの』です。(苦笑)

斎藤さんと鈴花が手を繋ぐシーンを書くの好きですvv

ゲームでは斎藤さんが御陵衛士になる直前に手を繋ぐイベントがありましたよね。

ささやかだけど、あのスチルとシーンにはぐっときた管理人です。

かすかに笑ってる斎藤さんがまた可愛いんだよなあ〜///

それでは、この度の拍手本当にありがとうございました!

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