恋華キャラで16のお題
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ゆっくりと夜が更けてゆく。
もともと物静かな尾形と無口な斎藤の二人が酌み交わす酒の席は、とても静かで妙にしっとりとした空気がその場を支配していた。
「とうとう君と俺だけになったね」
そんな空気を打ち破るかのように発せられた尾形の言葉に斎藤は少しだけ眉をひそめて、彼を見つめた。
「……尾形さん」
「会津に残った副長助勤は、君と俺だけさ…そうだろう?」
尾形が何を言わんとしているのか分からずに斎藤が黙っていると、彼は少しだけ自嘲的な笑みを浮かべて、空を見つめた。
「……腕の立つ君ならともかく何で俺がここまで生きてこられたのか、少々不思議でね……とりわけ悪運の強い方ではないと思うんだが」
そう呟いて尾形は酒を口に運んだ。
斎藤は内心困惑した。
尾形は自分に対して何らかの答えを求めているのだろうか。
だとすれば尾形が今日の酒の相手に自分を選んだのは間違いだったと言うしかない。
確かに尾形の剣の腕は斎藤などと比べるまでもないが、彼にはそれを十分に補うことができる頭脳がある。
尾形が生き抜いて来られたのは、その頭脳を駆使し、戦場で的確な判断を常に下してきたからだ、とは思うのだが、それを今更斎藤の口から聞いたところで、彼が満足するとは思えなかった。
結局斎藤は渋い顔のまま目の前に注がれた酒を飲み干して黙っていた。
そんな斎藤の様子に尾形は苦笑して、斎藤のお猪口にまた酒を注いでやると、
「桜庭くんは」
と小さく呟いた。
さらりと話題を変えるつもりらしい。
「……桜庭が、何か」
話題を変えてくれたことにほんの少し安堵して斎藤は尾形を見た。
尾形は相変わらず掴めない表情のままだ。
「……もう寝たのかい」
「ええ。さっき様子を見に行ったらえらく疲れている様子だったので……」
「……そうか」
今夜の尾形は少しおかしいと斎藤は感じ始めていた。
先程からの含みのある態度や言葉はこの男には似つかわしくない。
「……尾形さん」
「彼女は強いな」
「…………」
尾形の静かなまなざしがひたり、と斎藤を見据えている。
「桜庭くんのような女性がこれまで新選組の中で生きて来れたこと、あまつさえこの会津にまでついてきていること、普通では考えられないことだ……そうだろう?」
「……いつになく饒舌ですね」
「……そうかな。いや、そうかもしれない」
独り言のように呟いて尾形は小さく息を吐き出した。