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□夢現
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夢を見た。
刀を血で濡らし、紅く染まった山崎が振り返り笑う。
その笑みは、闇に紛れて…


−夢現−


「っっ!!」
生々しい程の夢に跳び起きる。
脳裏に灼き付いて離れない紅。暗く闇に紛れて、それでいて其の紅だけは鮮やかで。己を捕える鮮明な色。
身体が…動かなかった。視線を逸らす事も出来ず…確かに山崎は笑っていたのに。その笑顔は冷たく、感情のこもっていぬカラクリのそれの様な−まるで造られた、そんな笑顔。……眩暈がする。

「副長、起きてたんですか」
「…!…山崎…」

目の前には、何時もと何ら変わり無い山崎の姿。「おはようございます」とニッコリ微笑む。
その姿を確認し、ひしひしと伝ってきた安堵感が全身に行き渡り…少しばかりか緊張の糸が緩む。

「…どうしたんですか?ヒドイ汗…」
「…何でも、無い」

幾多の戦場を共にしてきた俺達にとって、ヒトを斬り、血を見るのは珍しいコトでは無く。
俺だってコイツだって、確かに同じ場所でヒトを殺めてきたんだ。
それなのに…俺はコイツのその時の表情を見たコトが無い。何時でも俺の前に出て振り返る事無く、只目の前の敵を淡々と斬るコイツの表情を−−
何時か総悟が言っていた、

"敵を斬る時の山崎の顔はスゴイんでさァ。アレはまるで別人ですぜィ"

そんな言葉が頭を過ぎる。
想像出来ない、いや、出来ないんじゃない。したくないんだ。それに…見ないフリもしていたのかもしれない。
何時だって俺は、コイツのヘラヘラとした脳天気な笑顔に癒されて、そんな笑顔が愛しくて堪らないから。
本当はコイツを血で汚したくない…鮮血にまみれたコイツなんて見たくないんだ−−
夢で見た様な山崎の、あんな笑みを見たら…俺はどうなるのだろう。

「土方、さん?」

汗でしっとり湿った俺の手を取り己の手で包み込みながら、黙ったままの俺の顔を心配そうに覗き込む。
そんな何時もの山崎の肩に顔を預けて。

「…山崎」
「はい…?」
「そのままで…」
「…え?」
「変わらずそのままで…俺の傍に……何処にも行かないでくれ」
「…怖い夢でも見たんですか?」

まるで母親が幼子をあやす様にポンポンと俺の背中を撫でながら

「…俺はちゃんと隣に居ます…大丈夫ですよ」

とフワリと微笑む。
こんなにもこの笑顔を見て心底安心する俺がいる。
鬼の副長とも言われる俺が、さっきからつらつらと情けないコトを言ったり考えたりして山崎に心配かけて…情けない。

俺が顔を上げると、優しく笑う。
俺はその時、これからもただ、この笑顔を護ると…そう心に誓ったんだ−−



あんな夢など気にしなくとも、俺の傍に居る山崎の笑顔があれば、それで…


数日後。
攘夷浪士の不法な取引が行われているという情報を掴んだ山崎。やはり、監察としての山崎の腕は一流だ。
山崎の案内で、真選組隊士を引き連れ現場に乗り込む。月の光が雲に陰り、辺りが闇に包まれている−そんな夜。

「山崎、今日は俺が前に出る。お前は後ろから来い」
「…何言ってるんですか。おこがましいかもしれませんが…俺は副長のアナタを護るためにココに居るんです」
「…いいから!」
「嫌です。いくら土方さんの命令でも…それに、」

真っ暗な闇の中を、雲の隙間から顔を出した月が照らして。
月灯りの下、山崎がふっと微笑む。

「アナタの為なら、俺は−−」

そう言った山崎は…まるで夢で見た姿そのままの……
背筋にひやりと感じる悪寒。
あの夢の中の山崎の姿だけが俺の不安を駆り立て…支配した−−


−キミのその笑みは夢か現か…−


(感情を棄て、ヒトを殺めるコトなど厭わない。アナタの為なら、例え自分の命を捨てても…)


end


****

うわ…暗っ。なんでしょう、このよく分からない話;;
いつも脳天気な山崎ばかり書いてたので、たまに少しシリアスな感じにしようかと思ったらこんな意味不明な感じに…orz
そのうえ、土山というかこれってなんだか山土?みたいな...色んな面で見事に玉砕です(…)


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