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□愛の言葉
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平和なゆったりとした時間が流れる、そんなある日。
ヴァリアーアジト内の一室−−ザンザスの自室に隣接する執務室で、ある雑誌をかじりつく様に見入る男がいた。


−愛の言葉−


"彼女との付き合いを永くする秘訣"
目の前のデスクに置かれた雑誌にはそんな見出しがでかでかと載っている。
「ハッ!くだらねぇ…」
馬鹿にした風にそう言いつつ、その本人曰く"くだらない"見出しに釣られてらしくない雑誌を買ってきたのは、付き合いを永くしたい相手がいるから…なんだろう。
そんなどこにでもある様な男性誌を眉間に皺を寄せながら呆れる程真剣に読む男−−
泣く子も黙る暗殺部隊ヴァリアーを束ねるボスであるザンザス。
…もっとも、今の風体ではそんな恐ろしいイメージは微塵も無いが……

「………そんなもんなのか…?」
目から鱗といった様な顔でボソリと呟いたザンザスが見ているページには、
"恥ずかしがらずにたまにはきちんと彼女に愛の言葉を伝えよう。彼女を不安にさせないためにもこれは大事な必要事項"
などと書いてある。

(愛している、なんて俺がカスに言ったことあったか……?もしかしたらカスのことを不安にさせてるんじゃ……)

それを真面目に受け止め、一人考え込む暗殺部隊ヴァリアーのボス。
…相手は"彼女"ではなく、"彼"…だが。

ガタッ

こんな記事を読んだらいてもたってもいられない。座っていた椅子が倒れる程に勢い良く立ち上がり、倒れた椅子をスルーして隣の自室に駆け込む。

「カス!!」

バタンとこれまた勢い良く扉を開け叫ぶと、ベッドで昼寝中だったスクアーロが寝惚け眼でこちらを見る。

「なんだぁ突然…そんな険しい顔して何事だぁ?」
目を擦りながらまだ眠そうな顔でそう問い掛けるスクアーロ。

「あ」
「…?」
「あ、あい…あいし」
「…はぁ?」
"愛している"
そんな短く単純な言葉を言えず吃るザンザスに、スクアーロは首を傾げる。
「ゔぉぉい…どうしたぁ?大丈夫か「愛してる!!」
「?!!」
スクアーロの言葉を遮り、いきなり怒鳴る様に叫ぶザンザス。驚き目を丸くして固まるスクアーロ。
怒鳴られ、またいつもの様に理不尽な怒りの鉄拳が飛んでくるかと思い、ビクリと身体が跳ね上がったが…よくよく聞いてみれば、それは愛の言葉。
…一体何だってんだ?声のトーンが違うだろ。
それに、物凄く険しい表情のザンザス。顔を真っ赤にして、"フシュー"と蒸気音の様な音が聞こえてきそうな程に顔からは湯気がたつ。
その形相と声色は、まるで怒り狂っているかの様だ。

「ボスぅ……だ、大丈夫かぁ…?」
今にも爆発しそうな主の顔を見て額に汗を浮かべ問い掛けると、スクアーロの声にハッと我に返ったザンザスは一層顔を赤く染めて…
「ちょっ、ザンザス!」
待てと引き止めるスクアーロの言葉を無視し、部屋から走り去るザンザス。
部屋に独り残されたスクアーロは、片手をザンザスの居た場所へ向けた"待て"のポーズのまま、ベッドの上で膝をつきア然と固まった。



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