小説
□愛しくて甘美な罰
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「ねぇオスカー、俺はきっと幸せなんだよね。」
ある日、家に訪ねて来たカーマインに唐突にそう話しかけられた。
声の方に視線を向ければ、先程まで開いていた本は閉じられその双眸は窓の外へと向けられていた。
「どうしたんだい、急に?」
そう言って、彼の前に置いてある空のカップを受け取る。
すると、彼が再び本へと視線を落とした。
「…否、別に。唯、ここに書いてあった事が少し気になってさ。」
「書いてある事?」
何が書いてあったのか、言うように促せば彼がそのページを捲って見せた。
「これ、オスカーなら知ってるだろ?」
「ん?これは…魔女狩り?」
確か昔、まだ魔法が公にされていなかった頃に多くの人々が魔女の疑いをかけられて火刑に処されたという人類の歴史上で愚かな出来事の一つだ。
「これってさ、本当に魔法を使えた人もそうじゃない人も殺されたんだって。」
カーマインが相変わらず視線を落としたまま言葉を呟く。
前髪が瞳にかかっていてその表情は見えないが次の言葉がやけに耳に響いた。
「その人達は、唯少しだけ他人と違っていただけなのに…。」
「カーマイン…。」
彼が静かに本を閉じる。
そして、僕の方を見るとそっと微笑んだ。
「ね。俺、幸せでしょ?」
「………。」
彼が昔からその容姿のせいで苦しんでいた事は知っていた。
でも、救世主として皆に慕われるようになってからそれも薄れていると思っていた。
しかし、彼の中ではまだ…。
「…答えてよ。」
カーマインが沈黙に堪えきれず、ぽつりと呟く。
そんな彼がとても苦しそうで、思わず抱き締めればその瞳が大きく見開かれた。
「…オスカー?」
「…僕は、幸せだよ。君が側に居てくれるなら。」
たとえ、この世に魔女狩りが再び戻ってきたとしても。
もし、それから最愛の人を守る事が罪だとしても。
共に禁断の果実を食べたアダムとイヴの様に、その罰を受けても君と一緒に居られるのならそれすらも僕にとってはこの上ない喜びになるだろう。
そっと彼の頭を撫でる。
すると、漸く彼の表情が和らいだ。
「ありがとう…。」
耳もとで小さく返事が返ってくる。
その声に微笑み返せば幸せそうに細められた双眸が目に入って、僕はその幸せがずっと続く事を祈りながら優しく彼の唇を自分のものと重ねていった。
END
→後書き