小説

□休暇の過ごし方
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「そんなに落ち込むなって・・・。」

とある宮廷魔術師の家のリビングで、一人の青年がまだ幼さの残る少女を慰めていた。

「だって、お兄ちゃんばっかりずるいよ〜!」

そう言っては不満そうに頬を膨らませる妹に、カーマインは正直頭を抱えた。
彼是、1時間近く愚痴を聞かされている。

「仕方ないだろう。前から決まっていたんだから・・・。」

「そうだけど・・私だって、コムスプリングスに行きたい!」

カーマインは、明日から休暇をとってコムスプリングスに行く事に決まっていた。
それというのもここの所特使の仕事が忙しかったため、碌な休暇が取れずにいたためである。

「いい加減にしなさい。あなたは学校があるでしょう?」

困り果てた息子を見兼ねて、奥の部屋からサンドラが姿を表した。
今はいつもの魔術師とは違って、母親の顔となっている。

「でも・・・。」

「カーマインはここの所働き通しだったんですから、たまには休暇も必要でしょう。でも、そこにあなたがついて行ったらカーマインがゆっくり出来ると思う?」

サンドラが問い掛けると、ルイセが途端に大人しくなった。
流石は、自分達を育てた人物である。

「ほら、じゃぁそろそろ寝なさい。」

「は〜い・・。」

返事をするとまだ少し残念そうな足取りで、ルイセの足音が二階に消えていった。
いつもは物分りのいい妹が何故そこまで執着したのか、この時点でのカーマインは気づいていなかった。

手紙を受け取ったのはほんの三日前の事。
見慣れない自分への手紙に不審に思い裏を見ると、そこには意外な名が記されていた。

「・・・ライエル・・?」

一瞬見間違いかとも思ったが、本人に間違い無かった。
以前見かけた彼の筆跡にそっくりである。
彼からの手紙なんて余程の事かと急いで封を切ると中の内容はこれまた意外なものだった。

「・・・コムスプリングス招待券・・・ってこれだけ?」

手紙などは一切入っていない。
彼の性格から考えるに、おそらく入れ忘れという事はないだろう。
きっと、ただ書く必要が無かったから。
その証拠に他の人間にはわからないだろうが、カーマインにはこれだけで彼の言いたい事が分かった。

「つまり、別荘に招待するって事か・・。」

数日後に休暇というこれ以上にないタイミングで届いた手紙に、カーマインはほとんど考えずに答えを出していた。

そして、コムスプリングスへ出発する朝。
まだ少し肌寒いというのに、ルイセが玄関まで見送りに来てくれた。
というより、只単にお土産の催促だったが・・・。

「わかったよ。じゃぁ、明後日には帰ってくるから。」

「絶対だよ。あぁ〜ぁ。私も行きたかったなぁ・・。」

ぎりぎりまで悔しがる妹に苦笑しつつ歩き出すと、
背後からすっかりいつもの調子に戻った妹の声が響いてきた。

「いってらっしゃい!」

カーマインは振り返って微笑むと、そのままコムスプリングスへ向かって歩きだした。
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