小説
□休暇の過ごし方
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「思いのほかすいてるな。」
コムスプリングスにつくと、平日のせいか、人出は疎らだった。
流石に温泉地と言うだけあって、辺りには湯気が立ち上っている。
「えっと・・・?」
そういえばと、ライエルの別荘を探すが見つからない。
というよりも、考えても見れば彼の別荘など行った事もなかった。
「あぁ・・・どうしよう・・?」
意味も無く自分に問い掛けてみるが、もちろん返事は無い。
道の脇では商店の客引きの声が響いていた。
『この辺にあるインペリアル・ナイトの別荘は何処ですか?』
そう聞けば直ぐに分かるだろうが、流石にそんな間抜けな事を聞く気にはなれない。
ましてや、ローザリアから家も分からない人間に会いに来たなんて・・・。
しかもここは有名な観光地。
客の扱いになれている商人達にとってみれば、自分は格好の餌食だろう。
そんなことを考えて、やはり自分は外の世界に慣れていないと苦笑する。
ふと、視界の端に見慣れた顔が写った。
「あ、ライエル!調度良かった。」
「あぁ、カーマインか。よく来たな。遅かったから、心配したぞ。」
久しぶりの友人との再会にカーマイン自身喜んでいたのだが、ライエルの表情は思いの他良くならなかった。というよりも・・・。
「・・・大丈夫か?」
「何がだ?」
本人はまったく気づいていないようだが、明らかに生気が抜けている。
「いや・・・その・・・、なんでもない。」
胃薬の飲みすぎか・・?
途端に頭を過ぎったのはその言葉。
しかし彼の別荘についた瞬間、その原因は直ぐに明らかになった。
「おかえり、アーネスト。」
扉を開けたのは、顔に満面の笑みを浮かべたインペリアル・ナイトだった。
「リーヴス、何でここに?!」
カーマインの驚いた表情に、嬉しそうに目を細める。
「うん。なんか、君が来るって聞いたから僕も泊めて貰おうと思って。」
まだ彼に会って数十秒しかたっていないのに、ライエルの苦労が手にとるように分かった気がした。
「・・・まぁ、とにかく荷物を部屋に運ぼう。」
ライエルが部屋の戸を開けてくれる。
一泊なので大した量ではないが、彼としてはカーマインへの気遣いというよりもこの状況をどうにかしたいという方が先決だったんだろう。
「そういえば、よくこっちに来れたな?」
「え?」
なんのことかというふうにカーマインが首を傾げると、ライエルが呆れたように振り返った。
「今日は君の誕生日でしょ?」
「あっ・・・!」
変わりに、リーヴスに指摘されて漸く思い出す。
道理でルイセが渋った訳だ。
「だから呼んだのに。まぁ、これで要約20歳だね。」
確かに、そんな事はすっかり忘れていた。まぁ、どうせ本当ではないが・・・。
そんなことを知ってか知らずか、リーヴスはいたって楽しそうである。
「あ、そうだ!今日珍しいお酒が手に入ったんだけど、今夜皆で飲まない?」
「え、いや。でも、俺そんなの飲んだ事無いし・・・。それにライエルにも聞いてみないと・・・。」
カーマインがライエルの方に視線を送った。
出来れば静かに過ごしたかったが、ライエルの返事は期待を裏切るものだった。
「別にかまわない。たまにはいいだろう。」
「・・・そういうなら・・・。」
あまり気は進まなかったが、決まってしまってはしかたがない。
とりあえず、せっかくの休暇が眠れない夜に決まった事で、カーマインは小さく溜め息をついた。