お話。

□狐饅頭。
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「はい」
「嫌がらせですか?松本さん」
目の前にご丁寧に箱に詰められた饅頭。
その形に眉がぴくりと動いた。
「売れ残っちゃったのよねー」
「……喧嘩なら買いますよ?」
「やーね!そんな怖い顔しないでよ。本当に余っちゃっただけなんだから」
「傷を抉るのが本当にお上手ですね」
「……」
「まあいいです。頂きます」
…松本さんも、食べますよね?

(断れる雰囲気じゃ、なさそうね)

こぽり注いだお茶の中から茶柱。
縁起がいい。
が、素直に喜べない。
「ついてるじゃない」
「…」

饅頭をがぶり。
頭からいったら彼女から非難の声が上がった。
「アンタ頭からいっちゃうの?!」
「頭のほうが餡子が詰まっておいしいらしいので」
「それは饅頭じゃなくて鯛焼きじゃない」
「鯛焼きは尻尾から食べますけどね、僕は」
「それはそれでなんだか可哀相ね。アンタが言うと尚更えぐいし」
「そうですか?に、しても、前、ちゃんと閉めてくださいよ」
「嫌あね。セクハラ〜?」
「……」
「そんな顔すんじゃないわよ」
「僕が逆にセクハラを受けてる気分です」
「殴るわよ」

沈黙。
重苦しい雰囲気だから、なんとなく、あの人の話をされるんだろうな、とか。
「ねぇ、…」
「なんですか」
「……」
「そんな顔するんなら持ってこないでください」
「ギンのこと、……」
「腸が煮え繰り返るくらい、恨んでます。憎いです。大嫌いですよ」
「御免なさい」

正直あなたに謝られたって迷惑だ。
静かに溜息を吐いた。

「………お饅頭、悪かったわね。帰って隊長にでも食べさせるわ」
「…頂きますよ。折角持ってきて下さったんですから」
「いいの?」
「えぇ、構いません。お茶請けにでも出しますよ」
「…そう、お茶ごちそうさま。おいしかったわ」

「さようなら」

今だに彼を引きずっている自分も大概馬鹿だと今日饅頭を見て改めて思った。

(たかが饅頭でこの僕がねぇ…)

狐饅頭、腹の足しにもなったし、あの人への腹いせにもなりました。

「ごちそうさまでした」










「狐饅頭か」

あの人を頭からばりぼり、食べているみたいで素敵。

「休憩にしようか」

お茶請けに松本さんから頂いた饅頭を出したら隊員皆、揃いも揃って顔を強張らせて僕を見たから、どうかしたのか?僕の顔に何か付いているかい?と訊ねれば不細工な笑顔で皆いいえと答えるからきっと彼らも隊長を食べる気分になったのだろうと思う。

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