お話。

□蚊に嫉妬する話。
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ぷくり、腫れ上がった。
皮膚。
ぽりぽり、無意識に掻く。

「それ、どないしたん?」

抑揚のない声で問われた。

「蚊に刺されたみたいです」

隊長はそれを見てまた問うた。

「何で刺されたんや?」

びっくりした。
驚きすぎて思わず申し訳ありませんと口が動いた。
蚊に刺されたくらいで何を謝っているのだ。

「知らないうちに刺されていたものですから…」

隊長は僕の手を握って甲をまじまじと見た。
何の変哲もない虫刺されだ。

「せこいわ」

また一層眉間に皺を寄せるものだから僕もより一層眉を寄せた。

(…せこい?)

そっと目を開いて鞘から刀を抜く隊長を何事かと見た。

「何を、なさるきですか」

「イヅルが蚊に喰われたから」

そう言ってなんの躊躇いもなしに刃先を這わそうとする隊長に僕は恐くて泣きそうな声で言った。

「おやめください」

「なんで?」

誰だって痛いのは嫌だ。
そもそも、腕を切られる理由が見つからない。

「なぜそのような」
「イヅルの血、蚊だけ啜ってんねや」

──そんなんせこい

蚊に刺されて、蚊の毒で痒なって、イヅルの白い肌、あこうなっとる

「ボクも蚊になりたかった」

それでオマエに潰されてしまいたい












つくづくこの人は変わっている。
気付いたらこの人は泣きながら血を啜ってた。


「はたいてもよろしいですか」


蚊になったあなたはつうっと口から血を滴らせてぶうんっと羽をはばたかせた。













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