3周年記念!

□死という喜びのはじまり
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―死という喜びのはじまり―


「直衛」


新しく出来上がった墓の前で、直衛は悲しげに立ち尽くしていた。すでに数刻は経過している。その間直衛は全く微動にせずその墓を眺め続けていた。

既に日は傾いている。これ以上放っておくわけにもいかない。何より、直衛の体調が心配だ。

頭ひとつ分小さい直衛の背後に立ち、気を使いながら彼の肩に手を置いた。少し冷たい。それは冬の気候のせいでないことぐらい保胤は分かっている。


「風邪をひいてしまう。もう、帰ろう」


胸を熱くさせるほど、直衛の体は柔らかかった。鼻にツンとくるほど良い甘さの香りに保胤は満足感を覚え、そうでありながらこの愛おしい義弟を哀れに思っていた。それは元来この保胤が持ち合わせる善良な心が思わせているのだが、他にも理由はあった。本人は自覚しているかは謎であるが。


「ええ、そうですね」


興味が失せているような、乾ききった声音。絶望しきっている者だけが発する事のできる声かもしれなかった。直衛の声はそれほどまでに人を奈落の底へ突き落とす何かがあった。しかし、保胤はそれを無視した。その原因を作ったのは自分ではない。

今、直衛の目の前で平然と眠りにつく墓の主が原因なのだ。


「直衛」

「はい」

「ならば帰ろう。お前が体調を崩してしまっては、彼も心配するだろう」

「彼――」


直衛は振り向いた。目は乾ききっている。涙を流した後は見られない。いや、それ以上の悲しみ(そう表現して良いか分からないが)が直衛の心を支配しているのだろう。それとも、別の理由があるのだろうか。

しかし、そんな事どうだって良いのだ。保胤にとって、この愛おしい義弟が傷ついてしまっている事に変わりはない。今、直衛に必要なのだ自分自身なのだ。

美しく、端正な顔で保胤は直衛の顔を見入る。熱い眼差しを向け、小さな子供に何かを教えるような口調で言葉を出していく。


「西田君のことだ。彼はもう死んでしまったんだよ」

「――ええ・・流行り病に」

「ならばこれ以上彼に気を使わせてしまっては悪いじゃないか。西田君はお前の事を慕っていたんだ。お前のそんな姿を見てしまっては、ゆっくり休めない。そうだろう?」


それは嘘だ、と流石の保胤も自覚していた。胸にドロドロと不快感を与える感情が渦を巻き始める。本当はそんな事思っていないのだ。

本当は、直衛が再び自分の元に戻ってきてくれればそれで満足なのだ。そういう意味で西田は全く邪魔な存在でしかなかった。直衛を束縛する頑丈な檻にしは見えなかった。

だから、西田が死んだと聞いたときは、どれほど保胤の心が踊ったか分からない。それほどまでに保胤は嬉しかった。喜びをかみ締め、西田に感謝の気持ちすら抱いた。

歪み。それは、保胤の内部で生まれ、すくすくと育っていった歪んだ愛情でしかなかった。これは直衛に出会ったからそうなったのか、それとも元来彼が持っていたものなのかは分からない。

ただ、ひとつ言えるのは、この愛情は日を重ねるごとにさらに屈折し、歪んでいくであろう事は確かである。

もうそれを邪魔する者はいなくなってしまったのだ。墓の下で見ているしかない。

保胤は目を細め、整った唇を優雅に吊り上げて直衛の手を握った。心なしか直衛の手は氷のように冷たい。理由は分からなかった。


「帰ろうか、直衛」


その手を温めてやれるのは自分しかいないという事を知っている保胤の胸の中には傲慢とも言える優越感が確かに存在していた。

でも、気づく者はいない。

これから先も――。


×××

ハイ。病み兄さんです。ヤンデレです!!

直衛の恋人?の西田と保胤兄さんは恋敵という設定にしちゃいました。

そして、西田を勝手に死亡させ、悲しんでいたりする直衛。

「もう、直衛は私のモノ」とほくそ笑みながらも、直衛が可哀想で仕方がない保胤兄さん。

ずっと前ですが、拍手コメに書いて下さった方のコメを参考に書かせていただきました!
 

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