皇国テキスト

□夜は過去へと続く
1ページ/1ページ

夜は過去へと続く

◇◆◇◆


あの日を思い出すよ、と弓のように目を細める彼の声の湿り気に奇妙に肌に熱が帯びた。人払いをすませた寝室は静寂に包まれている。聞こえるのは秋の夜長に相応しい鈴虫の声。乾いた葉の泳ぐ音が時たま耳に響くだけ。秋の到来を感じさせるには調度良い演出であったが、それに似つかわしくない動物的な吐息と水音。それと共に鈍く響く力強く高い音。子供ですら本能で気付くに違いない肉体的な行為のそれは徐々に激しくなっていく。

「あの日…とはっ…?」

苦しげな声。それでいて甘さのある声音に彼は満足げに微笑した。まるでそれを待っていたかのように。男は彼を見据えたままだ。美しく整った顔に湿った汗が流れ出ている。しかしそれがまた甘美さを演出するのだ。そんな男を眺めたまま彼は答えた。重たい声音だ。

「初めてお前と交わった日の事だ」

「…初めて…ああ、あの日ですか」

遠いあの日。まだ20にも満たないあの日。光帯が異常な輝きで地上を照らし出していたあの日に二人は交わったのだ。光帯の魔力に吸い寄せられるように、恐ろしいとすら思う行為に没頭した。何故、今になってそれを口にするのだろう。男は不思議でならない。彼はあまり過去を口にしない。まるで意味がない物のように扱う。だというのに。

「可愛かったなお互いに。やり方をまともに知らないから子供の飯事みたいだった」

「ええ、まことに」

男は優しげに微笑んだ。女の経験は既にあったが男の経験は皆無。何をどうすれば良いかまるで分からないまま行為を繰り返した。

「研究者のようだったな。時に本を読んで」

「…私は実験台ですか?」

思い出してみればなんて滑稽な行為であった事か。動物的な果ての繰り返し。そして申し訳ない程度の摩擦と刺激を繰り返した。本当の意味すら知らずに繰り返し、いつの間にかその意味を知った。

その頃になると取り返しがつかないほど二人の関係は深く絡み付いていた。怨念のように。しかしそれを二人は望んだ。だがあの日の初々しさは全て消え失せてしまったのだ。

「実験台…まさか、俺の方だよそれは」

「は…?」

起き上がろうとする男の肩を抱き、まるであやすように寝台の深い場所へ誘っていく。柔らかな感触がした。男は目を細めて彼を見た。まるであの日の彼だ。好奇心だけではない純粋な本能を剥き出すあどけない彼の顔が懐かしい。勿論口になどしない。

「さあ、実験を始めてくれ保胤」

彼は楽しげに笑う。彼なりの冗談のつもりか。なんて面白味のない冗談だろうと男は小さく笑った。二人の笑い声が響く。まるであの日のようだ。それを噛み締めながら男は優しげな瞳を彼に向けて言った。

「仰せの通りに、殿下」

◆◇◆◇

本当に勢いで書いただけのいかがわしいいかがわしい実仁と保胤。

なんだこれは。まるでただの中二病ホモ…しかし衝動をおさえきれず書きました。。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ