皇国テキスト

□妄想マジックボール
1ページ/1ページ

「妄想マジックボール」


成り代わり夢になりますので、ご注意下さい。

現代にいたオリ主(田中さん)が、何故か皇国の直衛になってしまったというタブーな内容になっております(汗)


◆◇◆◇


まさか目が覚めたら私は私ではなく、別の人間になっているだなんて。これは夢。神社の境内でうたた寝してしまったついでに出てきた夢なんだと。すぐに目が覚めて干からびた神社の境内に戻れるはずなんだと。縋るように願った。いや、願わずにいられない。そうしなければ私という存在が消えてなくなってしまうから。けれど消えてしまいそうだ。本当に訳が分からない。夢ならばはやく覚めて欲しい。


目が覚めたら“皇国の守護者”の“新城直衛”になっているだなんて、夢の世界でしか絶対に有り得ない事なんだから。


◆◇◆◇


「けれどあなたが“新城直衛”ではなく“田中”という全く別の人間だという証拠はどこにもありませんし、これからもそれを証明出来る事はありません」


全ては私の頭の中で起こっている混乱でしかなく、それ以外の人間からすれば例えそれが事実であったとしても妄想と何ら変わりはないと彼女は言いたいのだ。ああ、そんな事は分かっているよ。分かっているのだけれど、頭の中の混乱が消え去る事は絶対にないんだ。


「例え私の頭の中にある私の世界が妄想と何ら見分けがつかなくても、私はこの国の未来を知っていてそのままの状態で此処にいる。それだけが私を“新城直衛”ではなく“田中”という人間だという証明であると信じてる。それに冴香さん、あなたは私を“新城直衛”ではないと知っている。それも私が“田中”であると証明してくれる理由の1つなんだよ」


確固たる証明でない。まるで蜘蛛の糸のようだ。けれど見知らぬ世界に来てしまった私からすればその蜘蛛の糸は私の世界と繋げてくれるたった一つの繋がりである。それを平然と切り捨てる事は出来ない。

私は彼女を見た。正確に言えば彼とも言うべき彼女はどんな美術品も敵わぬほどに清廉された顔を曇らせた。両性具有者、この世界で最も美しいとされる生物。雌雄有するこの奇妙な生物のなかでもさらに美貌を輝かせる彼女、天霧冴香。

彼女は“新城直衛”の個人副官であると同時に愛人でもある。そういう設定であると私は知っていた。しかし私が“新城直衛”でない以上彼女をそのように扱う事は出来ない。けれど冴香さんは私に仕える。私を主人と思っているからではない。私の先にいるはずである本当の主“新城直衛”を手に入れるためだ。彼女を支配すべきであった男。今彼が何処にいるにせよ、私に仕えていれば必ずその機会が訪れるであろうと考えているのだ。おそらく冴香さんは私を良く思っていないだろう。彼女からすれば私こそが主を奪った女になるのだから。


「確かにあなたは私の望む“新城直衛”ではありません。だからこそ私はあなたが“新城直衛”ではなく別の人間であるといつまでも言い続けられます。しかしあなたは違う」

「違う?」

「あなたは“新城直衛”ではない否定しながら“新城直衛”でありたいと願っているからです」


冴香さんは透き通る声。威圧されているのだと分かってはいても心地良さすら感じてしまう。もちろん私は女性(部分的には男ではあるが)を愛する趣味はないが。

願い、と私は小さく呟いた。願いが希望を叶えるための一つの望みであるとするならば、私は“新城直衛”という登場人物に希望を求めているのだろうか。希望などという言葉が一番似合わない男に。だからこそこうして入れ替わってしまった今でも彼であろうと演技しているのだろうか。だとすればそれはまるでつまらない道化のようだ。


「望んでこの世界に来た…そういう事かな」

「無理矢理この世界に連れてこられたと思い込もうとしているように見えるのです」

「何故?」

「“新城直衛”でありたいと願う自分を消すため。そう思わなければ“田中”という存在は“新城直衛”に飲み込まれてしまうかもしれないから」


言葉を返せない。ああ、確かに私は元の世界でそういった妄想に閉じこもる事があった。“皇国の守護者”という一つの異世界、その世界の主人公“新城直衛”。彼の生き方、思想、その部分部分に見える学ぶべき事。それらを自分に取り入れて生きていこうと思っていた。あくまでも取り入れるだけ。そして現実を生きていく。私は“新城直衛”にはなれないのだから。

けれど、だけど、心の片隅で願っていた。一度で良いから“新城直衛”になってみたいと。それは幼い少女がお城に住む美しいお姫様に夢を見るそれと同じで、その夢の対価が多くの犠牲を必要とするだなんて知らなかったのだ。


「それでも私は“田中”なんだよ。なりたいと願っていたとしても私は“田中”で“新城直衛”じゃない」

「あくまでも“田中”として戦うと?」


戦争。私の世界で最も遠い言葉。私が知らない世界の言葉。いや、今はもう言葉ではなく現実として降り懸かっているのだ。それを無視することはもう出来ない。


「それが未来を知る者の義務だから。どうなるか分かっていて何もしないのは、分からずに何かをする人よりも罪は重いと思うから。だから私は“新城直衛”ではなく、未来を知る“田中”として戦うんだ。そして必ず“新城直衛”を見つけだしてみせる。私をこの世界に連れて来た男も必ず見つけだす」


自分でも笑いこけてしまうようなほどの詭弁。未来を知っているからといって私に何が出来るのだろう。私はただ“皇国の守護者”のシナリオ通りに動いているだけじゃないか。確かに最小限の被害になるように努力はしているけれど、根本的に変わったわけではない。むしろ悪化したところもある。私は出来の悪い操り人形のようだ。

それでも私は“新城直衛”を見つけださなくてはいけない。見つけだしてどうなるかなど考えていない。彼を見つける事で何が解決するのではないかと根拠のない何か抱いている。なんて浅はかな考えなんだろう。

冴香さんは全て分かっているはずだ。冷たく凜とした瞳がそれを教えてくれる。それでも仕える…いや、私に協力してくれるのは彼女も“新城直衛”を見つけだしたいから。その一点が私と彼女を結び付けているのだ。

ああ、どうしてだろう。冴香さんと私を結び付けるのが“新城直衛”なんだと思うたびに嫌な気持ちになる。おかしいな、本当におかしくなってしまう。何度も言うけど私は女性趣味ではないのだけれど。

冴香さんの氷のような顔を見る。“新城直衛”もこんな顔をするのだろうか。何もかも怖くて怯えながらも、そんな自分を冷笑するかのように凍った顔をするのかもしれない。私もいつかこんな顔をしてしまう時がくるのだろうか。


「ならば戦う義務を果して下さい、“田中”様」


冴香さんの挑むような声に私はゆっくりと頷いた。私は彼女が好きなんだな。というより、気付かないうちにどんどんこの世界が好きになってしまっているんだ。過激な世界だと分かっているのに。よく分からないな、本当。


◆◇◆◇


さーせん。即興で書いたので…こ、こんな感じになってしまいました…。

成り代わり夢って色々ありますが、やはり夢主さんはこういう状況をどこかで心地好く思っているのかもしれないなぁと。ただそう思えば思うほど自分自身がいなくなってしまうと、恐怖しているのかもしれません。

冴香さんは夢主さんが嫌いではないだろうけど、いきなり仲良くは出来ないかな。

色々な成り代わり夢がありますが、いきなり世界に入り込んで、本来の登場人物のポジションを奪い去るというふうにはしたくないのです。
奪い去ってしまうかもしれませんが、それには多くの犠牲や代償が必要になると思うのです。

例えば自分が自分でなく、その登場人物になっていく恐怖や反動とか。。

そこを触れずに進めていくのも良いと思いますが、私としてはあまりしたくないです。成り代わり夢事態、タブーなので。タブーを踏み込みすぎると、いずれ崩壊すると思うのです。。


などと言いながら、佐脇クラスタとして成り代わりで佐脇ネタも…。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ