アンケ結果!!

□憎悪の桜
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新城直衛。

まさか、奴と同じ部隊となってしまうなど。
これは悪夢だろうか。

部隊に配属された初日の夜、佐脇俊兼は、暗闇の中でそう思った。

新城直衛という、出来るならば二度と目にしたくなかった相手との再会に感動とは対極にある感情を抱いていた。

同時に俊兼は恐怖も抱いていた。

彼は今、幼い頃の記憶が蘇っていた。あの頃から、新城直衛は平然と殺人を犯していた。
まるで、当然のように、当たり前のように。

そして、その後は、何事もなかったかのように平然と日々を過ごしていた新城直衛。

殺人というものをあんなにも簡単にやってしまったあの男の内部にある残酷で残虐的な、歪みきった精神的異常性。

それは、あんなにも幼い頃から存在していたのだ。
歳を重ねればそれは更に異常を極め、恐ろしく悍ましい魔物のような、異常者になるにちがいない。

そして俺はそんな物を内部に潜め生きる男にかつて恨みを抱かせる行為を行った。

あの男は報復をすると決意すれば何年かかってもやろうとするだろう。そして、俺もそのなかの対象の一つとなっているのだ。

「冗談じゃない、あんな男になど−−」

俊兼は吐き捨てるように呟いた。

そして思い出すのは再会した時の事、俊兼は大人びた新城直衛を目にした。

ヒョロヒョロと不健康そうな印象のあった幼い頃とは違い、身長も伸び、体も男性的な体つきとなっていた(しかし新城直衛は男のなかでは小柄であった)

もう病的な雰囲気はなく、全てが変わっていた。

いや、全てというのはおかしいかもしれない。たった一つ変わらずにいたものがあった。

そう、それこそが俊兼に恐怖を抱かせる原因−その最大の理由といえるもの。

それは、氷以上に冷たいあの瞳

新城直衛の本質の一部分をはっきりとわからせるように存在するあの瞳。

その瞳が俊兼をみた時、異常な煌めきがあった。それは愛などという生温い感情からくるものではない。紛れもなく、憎悪−−いや、殺意。人間に備わる愛に匹敵(それ以上かもしれない)する感情の煌めき。

そしてその瞳が静かに俊兼をとらえた時、俊兼は身動きがとれなかった。いや、動けなかった。筋肉が一瞬にして恐縮し、ありとあらゆる機関が停止した。まるで蛇に睨まれた蛙のように。

新城直衛の瞳はそれほどに、強大な力をもっていた。爬虫類のような、冷酷で機械的な。それでいて相手に一瞬にして恐怖を与え、
その心を捕まえ、束縛できてしまうような、瞳の力。

それを本能的に察知した俊兼はこれもまた本能的に自覚してしまう事があった。

殺される−−−−。

素直にそう思った。
新城直衛は、今俺を殺そうとしている。駄目だ、勝つ事なんて出来ない。だから、殺される。そう、無惨に残虐に残酷に、惨殺される。

俊兼は、怯むように一歩下がった。新城直衛はそんな彼を見て、一瞬満足そうな表情にして、すぐに元に戻した。そして獲物を追い詰めた猫のような顔をして、静かに微笑んだ。

「久しぶりだね、佐脇。何年ぶりかな?」

この男、と佐脇は表情を凍らせる。この男、あらかじめ俺がこうなる事を予測してあえて計算して−−だから笑っているのか。

俊兼は確信した。その考えに迷いはない。迷いなどあるはずがない。その瞬間、全身に力がみなぎる。怒りに体が震えた。

そうだ、そうに違いない。

俊兼は新城直衛を睨みつけた。
尋常じゃない憎悪が込み上げてくる。そして、殺意もでてきた。であるからこそ新城は、今を愉しみきっているのだ。

俊兼は、その時はっきりと、明確に再確認した。新城直衛が佐脇俊兼を憎悪し、殺意を抱いているように、佐脇俊兼もまた、新城直衛を憎悪し殺意を抱いている。

その事をはっきりと自覚した。

「ああ、何年ぶりかな。懐かしい顔を見れて、嬉しいよ新城」

俊兼は、形ばかりの笑みを作って言った。そしてその笑みは徐々に本物のものへと変わっていった。
それは、忘れかけていた憎悪の起動装置を再び、自らの意思で作動させた事を嬉しく思っているような笑みだった。

いや、俊兼はそれで笑っていたのだろう。だからこそその夜に自らの醜い一面を自覚した彼は、激しい自己嫌悪に陥ってしまったのだ。そして、その後めぐっていく思考は再び新城直衛にたどりつき、新城直衛という男への憎悪がより強大なものへとなっていったのだ。

この季節、桜が華やかに咲き乱れつつあるなか、佐脇俊兼は憎悪という花を艶やかに咲き乱れさせたのだった。

−−

めちゃめちゃ捏造していますが、
これで完結です。

たぶん二人はあの過去がなければ、親しい関係になっていたかもしれないと、猫娘は思ってます〜〜。
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