Magic!

□第六話 妖しき転校生
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「転校してくる子、可愛いかな〜?オレのクラスに来ないかな〜?」
一人浮かれるラースを、三人は遠い目で見ながら肩をすくめた。

−魔月高校二年C組−
「転校生の子来ないかな〜?もし来たら可愛い子がいいな〜」
「まだ言ってるのか。もう八回目だぞ。」
ラースがレイヤの後ろの席で転校生の姿が見えやしないかしきりに教室のドアを気にしていた。
はっきり言ってレイヤはそれがうっとうしくてしかたなかったのだが、それを言う前に教室のドアがガラッと開いた。先生だ。
「皆さんおはよう。え〜、早速ですが今日このクラスに転校生が来ました。皆さんに紹介するね。…いいよ入って入って」
女性教師がクラスに向かって喋った後、教室の外にいる誰かに手招きした。ラースが息を呑む。
転校してきた生徒の脚が二年C組の領域に踏み込んだ。それは教卓の前で止まる。
「乙ノ波美織(おとのはみお)です。よろしくお願いします」
美織はお辞儀した。淡い緑色の高く結わえられたポニーテールが揺れる。
(やべえ!!この子超可愛い〜〜!!!)
ラースが心の中でバラ色の背景に溶け合いながら踊り跳ねていた。レイヤは嫌でもその気配を感じていたが、美織が頭を上げ、その顔を見た瞬間…

ドクン

「!?」

急に粗雑な過去の映像がレイヤの頭を駆け巡った。
燃え盛る炎、人々の泣きわめく声、そして…

『あなたを殺す。あなたの父親と同じように…この世界の血族はみんな殺した……あとはあなただけ……』

女がレイヤの前に立ち、身の毛もよだつようなゾクリとする目で見据えた。
『死になさい……』

「……い!おい!!聞いてるか!?」
レイヤはハッとした。ラースが後ろから身を乗り出して怪訝そうにレイヤを見ていた。
「いや…なんでもない」
(なんでいまさらあの時のことを…)
レイヤは過去の残像を振り払った。
美織は既に空いた席に着くところだった。
「いや〜あんなに可愛い子が来るなんて全くの予想外だったぜ〜。やばいぜ。どうしよっかな〜」
ラースは快い悩みに浸りながらも、普段と様子の違うレイヤに注意を向けていた。
「どうしたんだよ。やっぱなんか変だぞ」
「昔のことを思い出しただけだ。」
ラースはさっきまでの幸せそうな表情を消した。
「昔っておまえ…」
「例の四年前の大火事…『地獄の業火』のことだよ」
レイヤは淡々と言うが、その目は決して明るくなかった。
「じご…っておいそれ…!そうかおまえが昔住んでたとこはあの大量殺戮があった…」
「お〜い伊宮、凪沢!」
C組の学級委員長がレイヤとラースに話しかけた。(凪沢勇輝:なぎさわゆうき というのがラースのコードネームだ)
「なんだ笹川。」
学級委員長は二人を手招きした。後ろには美織が立っている。
「乙ノ波さんが昼休みに校内を案内してほしいそうなんだ。俺が行ってあげたいんだけど、委員会の集まりがあって行けないからおまえらで行ってもらいたいんだ。」
ラースは待ってましたと言わんばかりに、
「おお!いいに決まってるって!オレが心優しき我が学級委員長の頼みを断る訳無いだろ〜?」
ラースが学級委員長の背中をバンバン叩いた。そしてレイヤに聞こえぬよう、ぼそりと、
「なんであいつも一緒なんだ」
学級委員長は、
「おまえだけだと心配なんだよ」
と、うっとうしそうにラースから離れた。
(さすが委員長、よくわかってるな)
レイヤはとうに学級委員長の魂胆を見抜いていた。
ラースはクラス公認の女好きで、(決して自分は認めようとしないが)たいていの女子の頼みはなんでも聞くのだ。だから学級委員長はラースなら嫌がるわけがないので学校案内をラースに任せ、そしてラースは悪い奴ではないがなんとなく周りを心配させるので、お目付け役にレイヤを…ということなのだ。
(まあ……暇だし、いいか……)

昼休み。
「さあ〜学校探検出発〜!」
ラースが元気よく拳を突き上げた。
「おい、ノリが小学生の遠足だぞ。」
「うるさい、黙ってろてめえはっ!今回はなぁ〜、おまえはオマケなんだよオ・マ・ケ!!」
レイヤの冷めたツッコミを、ラースは一語一語力をこめてはねつける。
「えっと〜、美織ちゃんって呼んでいい?」
後ろに静かに佇んでいた美織に、ラースが問いかけた。美織は頷いた。
「美織ちゃんは来たばっかだから校内を見て回りたいと思うのは当然だ。で、それには案内する人間が必要だ。しかし委員長は用事があって、オレに頼んだ。だからオレはその頼みを聞いたんだ。おまえがここにいられるのも委員長の頼みを聞いたからなんだよ。わかったか!」
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