Magic!

□第五話 真夜中の学校探険/後編
2ページ/5ページ

「そうすると…その魔物は術者や状況によって護りの力を使うか決めているのかもな」
シアンもレイヤもアサギの敵ではない。しかも二人とも攻撃しようとしてアサギに術を使ったわけではない。護るためだ。どうやら場合によっては必ずしも魔物が護ってくれるわけではないらしい。
「あ!そういえばさ、シークノイザーはどうなったの?」
アサギはドアの取れた化学室の入口に立って廊下をはじからはじまで眺めた。廊下もすごいありさまで、天井が落ちていたり、ガラスが割れていたり柱が倒れていたりしている。シークノイザーの笑い声は、全然聞こえない。
「うわ〜レイヤやりすぎだって。これはちょっと…」
「後で直す。相手が相手なんだ、これぐらい当たり前だ」
「これぐらいって!震度6強の地震がなきゃこんなにはなんないよ!」
魔術師の戦闘というのは、本当に激しい。アサギもそれはわかる。でも、彼らはそれに慣れすぎて感覚がズレてしまっていやしないかアサギは心配だった。
「それよりも、おもしろい物を見つけたぞ」
レイヤの声は化学準備室から聞こえるようだった。アサギが見に行くと、
「これだ。」
レイヤがアサギに一本のビンを見せた。液体のようだ。
「?」
アサギには、それがなんの薬品かわからなかった。
「もしかしたら、これが役に立つかもしれない」


『アハハハハッ!!』
魔物が飛び掛かる。
「ぶっ飛びやがれ!!」
ラースが廊下にある棚を魔物に向かって思いきり倒した。中の本が飛び散る。
魔物はそれをかわすとラースに光線を放つ。ラースはしゃがんでかわした。
「もう少し相手が遅ければ…」
シアンが拘束術をかけようとするが、なにしろシークノイザーが速いので外れてしまう。シアンが術をかけようとする度にタイミングを予測して逃げてしまうのだ。
「夜行性の奴はただでさえ夜中元気なんだ。そのうえに変異だなんて、こっちが不利すぎる。」
ラースが空中を跳び回っているのをシークノイザーが追いかける。ラースが陽動役になりシークノイザーを引き付け、シアンがシークノイザーに術をかけるという作戦は、なかなか上手くいかない。
(ああどうしよう…。またラース先輩に迷惑かけて。この前強くなるって決めたのに。これじゃいつまで経っても…)
シアンの頭の中に、傷つくアサギと救援に来たレイヤとラースの姿が浮かぶ。全ては魔術師として自分が至らないから。そうシアンは思っていた。
(なんとかしてこの場を打開する方法を…何か…何かあれば……!)
その時シアンの頭の奥で何かが光った気がした。
「そうだわ…あった!方法が!」
シアンは近くに落ちていた本を拾いあげると小声で呪文を唱えた。本は一度だけ緑色に光った。それを確認すると、
(術の媒体はこれでいい。後は…)
もう一冊、落ちていた本を拾うと、シークノイザーに向かって投げた。本は魔物には当たらなかったが魔物の注意をこちらに向けさせるには十分だった。
『グ……?』
「こっちよ!」
シアンが魔物に呼びかけた。
「ダメだシアンちゃん!」
ラースが身を乗り出して叫び、シークノイザーを行かせまいとしたが、足の速い魔物は既にシアンに飛び掛かる寸前だった。
しかしシアンはしっかりとした目で魔物を見据えていた。
(この魔物はこちらが魔術をかけようとするそぶりを見せればすぐよける。だったら方法はこれしか…)
『グゥゥゥゥ!!』
魔物がシアンの真上に到達する。そのまま髪をシアンに叩きつける。
「シアンちゃん!!」
今にも髪がシアンにぶつかるという時に、シアンは跳び上がった。完璧に相手の攻撃を見切り、かわした。
獲物を逃した魔物はシアンがいた場所に着地した。シアンは得意げに笑みを浮かべた。
「かかった!」
シアンがいた場所には一冊の本が置いてあった。シークノイザーはそれを踏んでいた。
本は緑の光を放ち、そこから大きな魔法陣が現れた。シークノイザーはたちまちそれに拘束されて動けなくなった。
『グッ…グゥゥ……ア゙アァ…!!』
「先輩今です!」
「わかった!行くぜ!」
シアンのアシストにラースが応える。
「『集中砲火! 灰に返れ火衣の園(ひごろものえん)!』」
ラースの指から勢いよく走る炎がまっすぐにシークノイザーに向かってまとわり付き、包んだ。
『ギァ……グッッ…ア゙ア゙ァァア゙ァア゙!!!』
耳をつんざくような恐ろしい悲鳴。
ラースは止めることなく炎を走らせ続けた。
『グゥオッ!……ギギギ……ッガ……ガァァアァ!!』
炎の中でシークノイザーはもがく。シアンは静かに見守っていた。
『グッ…アッ……ギャアアアアアアアァァァ!!』
シークノイザーの姿はだんだん朧げ(おぼろげ)になってきた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ