Magic!

□第四話 真夜中の学校探険/前編
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「…なんか、幽霊っていうか七不思議っていうか…」
アサギは図書室にある怪談シリーズの本を思い出した。頭の中には夜のプールから手が伸びてくる映像や人体模型が校内を駆け回る様子が思い浮かんだ。
「そこでなんだが、任務依頼がオレ達だけでなくシアンにもきている。」
「えっ、私も!?」
シアンは驚いた。
「そう。オレとしちゃシアンちゃんを危険な目に遭わせたくないんだけど。あと、書類によると魔術師じゃないアサギまで名前があったぜ。」
ラースが淡々と言ったのでアサギは自分の名前を聞き落としそうになった。
「なんでオレも?」
「さぁな。聞いた話ではおまえは魔物が憑いているらしいから、そのことがあるんだろう。ただ、魔物退治に四人も派遣することは珍しい。その辺は姐さんに考えがあるんだろうが…」
レイヤが考えながら言った。四人は歩きながら周りに気を配る。一般人に聞かれることがあってはならない。
「なにしろ今回の魔物は姐さん話ではシークノイザーつって、夜中にふらふら歩き回って騒ぐだけのザコ中のザコだ。わざわざ退治しにいく必要がない魔物だぜ。こっちの世界にはいないはずの魔物だから誰かが持ち込んだのは確かだが、普通に考えたら任務内容の方が異常だ」
ラースもしかめっつらをして考え込む。
「ただ、シャーナ姐さんの判断が間違っていたことは一度もない。心してかかった方がいい」
レイヤが真剣に言う。もう互いの学校の前に来ていた。
「任務は早く終えてしまいたいから今日やることにする。魔物が出るのは真夜中の12時だから、校内を確認して準備するためにもその30分前に校門前に集まること」
「え〜ダメだよ!今日は『怒りんぼ探偵怒野』があるんだ!今日は前に特番があって放送が11時から12時だから見られない!」
アサギがレイヤに猛反対した。なにしろ『怒りんぼ探偵怒野』はアサギのお気に入りドラマだ。原作マンガも全巻持っている。
「録画しとけばいいだろ」
「やだよ今日はどうして怒野切(いかりのきれる)はキレてばっかなのかって謎が明かされる大事な回なんだよ!できれば生で見たいんだ!」
しかしアサギのわがままが聞いてもらえるわけもなく、午後11時30分に魔月高校門前集合となった。


「ああ『怒りんぼ探偵怒野』を放送日に見られないなんて…しかし録画しといたから任務が終われば見られる!待ってろ怒野探偵!!」
真夜中の閑散とした通りを抜け、アサギは怒野との一度だけの別れを惜しみつつスケボーを高校に走らせていた。
校門の前には他の三人は全員集まっていた。
「集合時間5分前全員集合。時間より早いが早速校内に入り校内を確認する」
レイヤが形式的な口調で言った。きっと班でのやり方なのだろう。
四人は昇降口から学校に入った。念のため持ってきた懐中電灯はつけなかった。夜の学校は人気が全くなく、物音一つしない。
「うわあ、広いなあ。」
アサギが校内を見回す。目の前には階段やら通路やらがいっぱいで、どこがどこに繋がるのかよくわからない。
「魔月高は本館、特別棟、体育館の三つにわかれていて、それらは通路で行き来できるようになっている。今いるのは本館の一階。一・二階東の通路から特別棟、一・二階西の通路から体育館に行ける」
ラースが校内の地図を指しながらアサギによく聞こえるように言った。
「問題の魔物、シークノイザーは午前零時になると校内を徘徊する。どうやら奴は特別棟がお気に入りでそこばかり歩き回ってるらしいぜ」
「マズィーラの秘偵員の情報だと、そうなっている」
「秘偵員って何?」
アサギがレイヤに質問した。
「マズィーラやこちらの世界で『地獄の覇者』関連の情報を集める者のことだ。一種の情報屋だな。秘偵員の仕事は高給だが危険な情報を扱うために命懸けだ。ここの世界では自身や一般人の安全のためにも誰にも自分の存在を知られてはならない」
「そんなことできるの?」
アサギが驚きながら言った。それはどうにも不可能な気がする。
「確かに情報を引き出すには他人と関わらなければならない。だが、情報を得た後関わった全ての人間から自分に関する記憶を全部消してしまえばそれで済む。
まあ、実際は高い報酬でも払いきれないぐらい辛い仕事かもしれないな…いろいろな意味で」
アサギはレイヤの言葉を頭の中で反芻(はんすう)した。自分を知っている全ての人から自分のことを忘れさせるなんて、どういう気持ちでするんだろう。
「…話が逸れたな。まだ時間じゃないが特別棟に行くぞ」

一行は一階東の通路を使って特別棟に向かった。
夜の学校は気味が悪かった。アサギはちょっと音がしただけでギクリとしたし、途中にあった鏡に映った自分の姿を見て叫びそうになった。
「ここだ」
通路を抜けると特別棟だ。
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