Magic!

□第六話 妖しき転校生
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アサギは再び渦のような空間の中にいた。
ぼんやりした姿の相手がまたアサギの前に立っている。
−アサギ…−
静かに響くその声にはなんとも言いようのない威厳があった。
−おまえは皆を助けたいと言ったな。その皆とは、この世界の者達か。それとも、マズィーラの者達か?−
(オレは…)
−おまえが力を使わなければこの世界は滅びてしまうかもしれない。この世界の住人のおまえには大きな問題だ。
マズィーラも滅びるかもしれぬ…。しかしおまえはマズィーラの者ではない。わざわざ助けずとも、滅びようともおまえには関係ない。それでもマズィーラの者達を助けるか?−
その問いを、アサギは頭の中で反芻する。
(そうだな。オレはこの世界で生まれて、ずっとここに住んでる。この世界は時々冷たいけど、そのぶん楽しい時は楽しい。だからオレはこの世界が好きだ。護りたいとも思う。)
目の前の相手はアサギの心の声に耳を傾ける。
(マズィーラは行ったこともないし、マズィーラの人達ともほんの一部の人達、それもたったの四、五人しか会ってない。オレはマズィーラを知らない。このまま知らないでいることもできる。)
−ならおまえは、この世界をとるのか?−
(でもね、正直言ってオレはどっちをとれるかなんてわからない。確かにマズィーラのことは知らない。
でもそこにいる人達のことは、ほんのちょびっと、1%にも満たないだろうけどわかったんだ。その人達のいるところがなくなるんなら、オレは耐えられないと思う。)
アサギは今までの任務や戦いを思い出していた。
護衛として身を挺してアサギを護るシアン。
学校で転校生と転校先のクラスメートとして初めて会った日、拉致されかけたアサギをこの世界に繋ぎ留めた。
対ロストの時はアサギを護ろうと格上の相手にも決して怯まずに戦った。アサギを一人で護りきれなかったと泣いていたシアンを、どうにもアサギは忘れられない。
真夜中の魔月高での任務で、アサギを助けるために自分の危険も顧みず魔術を放ったレイヤ。
レイヤは一言も言わなかったが、それしか方法がなかったとはいえ建物の中で風魔術を使うことはとても危険なことだ。一歩間違えば自分もアサギも崩れた壁や天井の下敷きになる可能性もあった。しかしレイヤは信じたのだ。自分とアサギを。
これまで自分や仲間を信じてきたのと同じように。
ラースとは直接には何もないが、アサギとシアンがピンチの時、レイヤと共に駆け付け、ロストと戦った。そしてシアンを護り、協力し合いながら魔物を倒した。
(その人達はオレを護ってくれた。その前には何の関わりもなかったオレを。そりゃオレを死なせると大変らしいってのは知ってるけど、それでもオレはその人達に何かしたいんだ。)
−それではおまえはどうするのだ?その力は…−
(オレにはどっちの世界を護るかなんて選べない。どっちも護るよ)
アサギはしっかりと言った。自分でもその答えに自信を持っていた。
ぼんやりと霞んでいる相手の顔が、なんとなく笑ったような気がした。
−そうか。おまえのその言葉、しかと受け止めた−……


「ん……」
窓から光が差し込んでいた。アサギはベッドから起き上がる。
「夢…?」
確かにそれは夢だった。しかし、普通の夢よりもはっきりと夢の内容を思い出せるし、真夜中に学校で見たのと似ている夢だった。何よりアサギ自身がただの夢ではないと確信していた。
(誰かがオレに話しかけてくるけど、あれは一体誰だろう…)

結局答えのでないまま、アサギは家を出て、シアン達と学校に行った。
「ふうん、そんな夢を…」
「何かの暗示かもしれないな」
シアンとレイヤは真剣にアサギの話を聞いてくれた。
「その姿のわからない誰かが誰なのかわかればいいんだけどなぁ…」
「…ん〜あ〜……。そうだな……」
ラースは心ここにあらずといった様子で、しきりにキョロキョロしていた。
「どうしたハリネズミ。挙動不審だぞ」
レイヤが言うと反応もそこそこに、
「い〜だろ別に。さっきオレらを追い越してった女子が、噂で今日魔月高の二年に女子の転校生が来るらしいって言ってたからもしかしたら近くにいるかな〜って…」
レイヤは呆れたと言わんばかりに大きくため息をついた。
「…女好き」
「あ!?なんだてめ〜文句あっか!?」
これには反応した。
「別にない。好きにしろ。ただ転校してくるのが男子だったらそんなに興味持たないと思ってな。」
というレイヤの発言に、
「あったり前だ!男が来たって嬉しいわけねぇだろ!女の子がいてこその学校だ!」
ラースが「なぁ?」と目でアサギとシアンに同意を求めてきたので、二人はさりげなく目を逸らした。
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