Magic!

□第五話 真夜中の学校探険/後編
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−アサギ…アサギ…−
誰かが、アサギを呼んでいた。
(誰…誰なんだ……?)
聞き覚えのない声だ。そこはよくわからない不安定な渦のような空間だった。アサギの目の前に誰かがいる。その誰かがアサギを呼んでいるのだ。しかしアサギには姿がぼんやりと霞んで全然見えない。
−アサギ…−
(なに…?)
−アサギ…おまえは、魔術師になりたいか…?−
声がアサギに語りかけた。
−おまえには力がある。それを魔術師として使いたいか…?−
アサギは言った。
(魔術師?う〜ん…今までずっとそんなものと縁がなかったからわかんないや。オレはただの中学生だから…。でも、みんなを助けたい。オレの力が何かの役に立つなら、オレはそれでいいよ。)
声の主はそれを静かに聞いていた。
−そうか…なら、今はそれでいい。それよりも大事なことがある。今は行け…−
目の前が揺らぐ。空間が消えてゆく。
(オレは…)
−おまえは今やることがある。その後、また会おう…アサギ…−

「アサギ…アサギ!」
「ふにゃ?」
誰かに肩を揺すられている。
「そろそろお目覚めの時間だぞ」
「…おまえ、誰?」
アサギは目を閉じたまま言った。何故だか目が開かなかった。相手はハァ、とため息をつく。
「誰とはご挨拶だ。少々乱暴だったが、シークに殺されそうだったのを助けてやったんだ。いい加減起きろ」
アサギの頭に痛みが走った。そのはずみでアサギは目を開けた。
「いっつ…。あれ、レイヤ?」
目の前には黒髪の少年がいた。髪と同じ黒の目が、アサギに向けられていた。
「思い出したか。オレが例の『誰』だぞ」
「ごめんごめん。寝ぼけててさ。それであの…何があったの?」
アサギは周りを見回した。二人がいるのは学校の教室の一つのようだ。しかし机や棚は粉々に砕かれ、倒れている。アサギは窓際のロッカーにもたれかかっていたが、そのロッカーもアサギがもたれている部分が異常にへこんでいた。
「いい質問だ。ここは魔月高の特別棟二階の化学室。
おまえは戦いの途中で魔物に後ろをとられ、奴の長い髪に絡めとられた。魔物はそのままおまえを食べようとしたが幸い5体のシークノイザーはおまえに夢中で、オレは自由に術を使うことができた。おまえが捕まってから三秒以内に発動しなければならなかったが。オレの術でおまえごとシークを吹き飛ばしたんだ」
周囲の様子から見て、レイヤが相当強い術を使ったんだろうということは間違いない。でなければこんなに教室がめちゃめちゃになるわけはない。
「オレ達が戦っていたのはちょうど化学室の前だった。オレが発動した風の魔術でおまえは化学室のドアをぶち破り、そのまま化学室のロッカーに叩きつけられて気を失った。そういうところだろうな」
レイヤの話を聞いて思い出した。そうだ。アサギの脳に記憶されたその時の映像が再生される。

「うわああああぁ!!」
シークノイザーの髪がアサギにきつく巻きついて、アサギは動けない。
『ギャハハハハハ!!』
シークノイザーが歓喜の笑い事をあげながらその歯でアサギの肩を貫こうとした。仲間のシークノイザーもおもしろそうに見ている。しかし。
「『眼前の物全て吹き飛ばせ 疾風・鶴蛇の舞(はやて・つるへびのまい)』!」
早口気味の呪文が発せられた。
シークノイザーにとって痛恨のミスだったのは、全5体がアサギに意識を集中させていたことだった。ノーマークだったレイヤは簡単に術を使用できた。
「わぁあぁあぁ!」
『ギャアアァアァ!!』
次の瞬間魔物5体とアサギはそれぞれ別方向に吹き飛ばされた。すごい風だ。アサギは途中で化学室のドアにぶちあたり、ドアを6mほどぶっ飛ばし自分もそのままぶっ飛んでロッカーに衝突し、痛みを感じる間もなく気絶した。

アサギはその記憶を取り戻したことで、いまさら体の痛みも取り戻した。後頭部と背中をさすりながら、
「助けてくれたことは感謝するけど、もう少し優しくしてほしかったな。」
レイヤは、
「あの状況でそんなことを考えている時間はなかった。それにオレは、姐さんからおまえは魔術の影響を受けないと聞いていたから術を使ったんだ。」
と言った。
「あ、確かにそうだ」
自分のことながら、アサギは忘れていた。
「なんでだろ…あ、でも…神社でシアンがオレを吹っ飛ばした時も、シアンは魔術を使ってたんだっけ」
「なんでシアンはおまえを吹き飛ばしたんだ?」
「今日と同じ。その時ちょうど魔物に襲われそうになったんだよ。シアンは、レイヤと同じようにオレを護ろうとしてオレを吹っ飛ばしたんだ」
アサギは言った。
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