Magic!

□第三話 刺客そして救援
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「ピディーカーはやられてしまったようね」
「ああ。だがあれはもともと我々の計画にはなかった。」
暗い部屋に、真っ黒い服を着てフードを被った男と、対照的に白いレースの服を着たベージュの長い髪の女が、向かい合って椅子に腰掛けていた。
「あちらの世界を引っ掻き回す為に私があの魔物に力をあげたこと、怒ってるの?」
女は楽しそうだ。男は答えない。
「ま、いいわ。それより例の件についてだけど。魔物の容物(いれもの)が見つかったわ。淡いオレンジの髪の、元気いっぱいの男の子だそうよ」
これには男は興味を示した。
「捕獲はしなかったのか?」
「捕まえようとしたら魔術師に邪魔されたらしいわ。マズィーラ政府もあの魔物は手放したくはないんでしょうね…」
女は呟いた。
「ロスト…あの子なら、楽しくしてくれるかしら…」


「行くぞ…新技…」
顔に汗が流れる。アサギは深呼吸しながらスケボーを走らせ、十分助走をつけたところで、思いきり高くジャンプした。
「スーパーツイスト・ドロップアサギ!!」
アサギは体を捻りながら落ちる。地面にある程度近づくとさらに大きく全身を捻り、着地する。
(今度こそ!!)
しかし、アサギは着地できたものの、衝撃に耐え切れずバランスを崩して転倒してしまう。
「痛てて…くそ、できねぇ!!」
アサギは立ち上がる。それでも、この技はほとんど完成している。あと一息だ。
「あとは着地だけだな…。」
「アサギ!」
聞き覚えのある声だ。
「シアン?」
声のする方を向くと、シアンが立っていた。
「スケボーの練習?」
「そ。今は開発したての新技を練習してるんだけど、最後がなかなか上手くいかなくて」
アサギはスケボーを熱心に磨き始めた。
そこはアサギが学校の行き帰りにそばを通る公園だった。今日は学校が休みなのでアサギはここでスケボーの練習をしていた。アサギはスケボーの練習をするため公園をどうやったのかはわからないが貸し切り状態にしていた。そのためアサギしか公園にはいない。
「ちょうどあなたに会いに行こうと思っていたところよ。教えたいことがあって。この前のピディーカーの件だけど、誰かがピディーカーに魔力を与えた可能性があるわ」
アサギはよき相棒のスケボーをせっせと磨くのをやめた。
「誰かが…ピディーカーに魔力を…?」
シアンは真剣に頷く。
「ええ。シャーナさんも言っていたのだけど、やっぱりあの魔物があれだけの力を持つのはありえないの。誰かが与えない限り。恐らく『地獄の覇者』よ」
『地獄の覇者』。アサギはその名を聞くとゾクリとした。
「あとあなたの中の魔物のことだけど、もしかしたら魔物は、あなたに協力する気があるのかもしれないわ。ほら、あなたが魔物に『力を貸せ』って言った時、魔物はすぐにあなたに力を貸したわよね。」
あの事件から何事もなくニ週間が過ぎていたが、アサギはその時のことを鮮明に覚えていた。体中が暖かくなり、不思議な感覚で満たされた瞬間を。
「あの場面であなたに力を貸さなければ宿主のあなたがやられてしまうから仕方なく力を貸したのかもしれないけど、あなたはあの時確かに魔物の力を引き出したのよ。」
シアンが言った。
「それであなたは魔物の力を使って創魔を出したでしょ?」
「うん。あんまり頭で考えたりしなかったけど。」
「あなたの創魔…正確には魔物のね…あれ、爪の形をしてたから魔物もそういう姿をしているのかもね。ただ、あんなに大きな力を持ちながら、なぜアサギの魔力を吸う必要があるのかわからないのよねぇ…」
シアンはそう言うと木の下の草地に腰掛けたがまたすぐに立ち上がった。アサギ達がいるところから20mほど後ろの木を睨みつけている。アサギはあの木に恨みでもあるのかと思ったが、シアンは、
「そこにいるのね。姿を見せなさい。」
すると、その木の下に1人の男が現れた。肩の下まである、驚くほどまっすぐで薄いベージュ色の髪が印象的だ。若い男だった。
「おまえ誰だ!!」
アサギが言った。
「名前を聞く時は自分が名乗ってからにして欲しいな」
その男はそう言いつつも
「名は昔捨てた。今オレはロストと呼ばれている。『地獄の覇者』でな」
そしてロストの手に魔力が集まり出した。
「オレはある魔物の宿主を見つけてこいと言われた。それはおまえだな?」
ロストがアサギに向かって手を振り上げ、指先から青い筋が飛んだ。いつものように創魔はアサギから逸れた。
「やはりな…」
「『我の手に集え!そして満ちよ…閃光団』!」
辺りに光が満ちた。シアンが術を使ったのだ。今までで1番眩しい光だ。これを食らったらしばらくは目が見えなくなるだろう。しかし。
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