Magic!

□第一話 魔術師との邂逅
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「時間ですね」
少女が部屋の中央に佇んでいた。その髪は金色でおさげにされている。足元には、大きな魔法陣が描かれている。部屋の奥にはもう一人、黒い服を着た女性が立っていた。
「シアン、あなたの任務はわかっているわね?」
部屋の奥にいた女性が声をかける。少女はうなずく。
「あなたはまだ移動の魔術が使えないから、私があなたをあちらの世界に送るわ。それでは、頑張ってね」
女性が魔法陣に触れる。すると、魔法陣は激しい光を帯び始めた。
「行ってきます」
次の瞬間、少女は魔法陣から姿を消した。


― Magic!―


「やべぇ!遅刻する!!」
制服を着た中学生の少年が、朝の街中を駆け抜けていた。髪は淡いオレンジで、所々はねている。
名は吉原アサギ、市内の魔月中学校に通う一般的な14歳だ。今朝も寝坊という一般的な理由で遅刻しそうになっている。
「くそっ、『怒りんぼ探偵怒野3時間SP』を最後まで見なきゃよかった!ビデオ録りにしとくべきだったぜ!」
そこで鞄に忍ばせていたスケートボードを取り出し、乗った。スケボーはアサギの十八番だ。アサギの一般的でないところといえば、スケボーの天才というところだ。アサギはあっという間に学校に着いた。
アサギは先生がやってくる27秒前に着席した。席に着いた後教室に先生が入ってきたのを見てホッとしたが、その直後にあれ、と思った。先生の後ろに制服を着た金髪をおさげにした少女がいたからだ。
「ホームルームを始める前に、みんなに紹介したい生徒がいる。七枝雪君だ」
先生がみんなに言った。少女は前に出て、
「七枝雪(ななえゆき)です。よろしくお願いします」
「席は吉原の隣が空いてるから、そこに座りなさい。」
雪は先生に言われた通りアサギの隣の席に着いた。アサギがちらっと雪を見ると、雪はアサギにちょこっと微笑んだ。
「よろしくね。名前は…?」
雪が言った。
「吉原アサギ。うん、よろしく」
アサギが自己紹介する。「アサギ君ね。これからずいぶんお世話になりそうね」
「いや〜そんなことは…」
この時アサギはなぜか雪の言葉がとても心に引っ掛かった。しかしまぁいいかと引っ掛かったものを適当に流した。
その直後先生の話が始まったので2人の会話はここで終わった。先生の話を聞きながらアサギは雪を横目で見ていた。
(なんかなぁ…魔月中って最近転校生増えたよなぁ。真向かいの魔月高も。この子もどっから来たんだろ。)
そんな事を考えていたが、急に雪の周りが揺れた気がした。びっくりして目をぱちぱちしてみる。
(なんだ今の…気のせいか?)
目を細くしてよく見ると、雪の体から青白い光みたいなものが発せられていた。それが周りの空気を揺らしているように見えた。
(これは…?)
「どうしたの、吉原君?」
「はぃぃい!?」
アサギはギョッとした。気づくと雪がこっちを見ていた。
「私のことずっと見てたけど。私…なんか変?」
「いぃやいやいや!!そんなことないよ!全然まともだよ!うん!オレちょっとボーッとしちゃってさ!」
アサギは手をぶんぶん振って必死に否定した。雪が「そう」と言って前を向いたので、アサギはホッとした。いつの間にか先生の話は終わって1時間目の授業が始まるところだった。
息をついているアサギを来たばかりの国語の先生がいきなり指名した。
「吉原!34ページを読みなさい!」
「うへぇっ!は、はい!」
油断していたアサギは、慌てて机の中から教科書を引っ張り出した…が、英語の教科書だった。もう一度机の中を引っかき回し国語の教科書を出す。逆さまになったそれを正しく持ち直し、アサギは読み始めた。
「え〜…あ〜…文彦はみんなにあ、あ、朝顔…じゃない挨拶をして…」
雪はご指名に動揺して噛みまくりながら読むアサギをじっと観察していた。

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