■拍手御礼SS■
□春の名物
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あんな車に乗ってる人ってかっこいいよねー
と、友達は豪華な車を指して言う。
乾いた笑いしか私は出ない。
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遠くの砂漠からこんにちは
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後にも先にも、この季節以外はなかなか見られない。
キッドがこうもテレビにかじりついて天気予報とにらめっこをしているのは。
今は春。
別に春の風物詩ってわけじゃないことは知ってるけど、春は特に多いように感じる。
黄砂。
それが今ニュース番組の途中にある天気予報で「今日は多く降るでしょう」と告げられているのだ。
こうなると毎年、キッドの機嫌は最悪だ。
特に去年の冬に新車を購入してからは、やたらと天気に敏感になっている。
ぶすくれた顔で気象予報士の週間予想を聞いているキッド。
彼の車は今、見事に白からほんのりアイボリーへと彩られていた。
何を言っても返事をしないのは明白なので、部屋干ししていた洗濯ものを畳む。
一人暮らしのはずなのに、当たり前のようにキッドのものが混ざっているのだからどうしたものか。
最初こそ気恥ずかしさを感じていたが、いつまでもそんな初々しい気持ちではいられない。
さっさと畳んでしまおうと手を早めると、キッドが一定の低さでもって呟いた。
「今度の日曜、洗車行くぞ」
この一言には思わず声を上げる。
「えー!?映画見て食事行くって約束したじゃん!」
「っせぇな…、珍しく晴れんだよ。その日以外いつ洗うってんだ?」
テレビを見れば、まあ見事に日曜と月曜を挟んだ傘マーク。
「火曜に雨なら洗っても意味ないじゃんか」
「多少違ぇだろ。今のままじゃ気持悪ぃんだよ」
長いため息をゆっくり吐いた。
車のことに関して、キッドが折れたためしはない。
噛みつけば噛みつくほど苛立ちが増していくのは、前回の喧嘩で嫌というほど身に染みた。
「もーいいよ。わかった。」
そう言って、抱えた洗濯物を箪笥に収めようと隣の部屋へと消える。
付き合ってもう3年くらいかな。
最初のうちはこういうことも悲しくなったり怒ったりしたもんだけど、今となっては呆れるが先で。
慣れてしまうこと自体が、なんだかさびしかった。
パタ、と箪笥を閉めて振り返ると、部屋の入口にキッドが立っている。
用事は洗濯ものだけだったので電気はつけておらず、逆光の彼の表情が見えない。
なんだろ、怒ってんのかな?
いや、怒りたいのはこっちの方なんだけどな。
「なぁに?」
言いづらいのか首の後ろを掻きながら、キッドがゆったりと近づいてくる。
「あー、…洗車な…」
「うん?…手伝うよ?」
約束を破られようがなんだろうが、一緒にいたい気持ちはなくならないからこれも不思議。
自分より大切にされている車に嫉妬したこともあったけど、不毛だと気づいて成長してみた。
「いや、…終わったらメシくらい行こうぜ」
洗車に3時間もかけてさ。
自分自身だってそこまで飾りつけないくせにさ。
傷つけんなとか、中で食い物食うなとかさ。
こんな男別れてやろうかと何回思ったかな。
「…おい、何で泣くんだよ…めんどくせーな…」
「だって…キッドが成長してんだもん〜…っ」
「バカにしてんのかテメェ」
戸惑うようにされたキスが
まだ未来を望んでもいいんだって言ってくれた気がした。
「そういえば、車の扱い方は女の扱い方と一緒だってなんかで言ってたな…」
「あ?…何か言ったか?」
「べっつにー」
あんなのは嘘っぱちもいいとこだ。
今はそう思うことにしよう。
***END***
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