■拍手御礼SS■

□ナントカの秋
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【ドレーク】




これほどに本が似合う人を

私は知らない。




+++
ただその一夜
+++




見たいテレビがある、と言ったのは私だ。
ドレークは読みたい本がある、と窓際でそれを読んでいる。
一緒にいて別のことをするのは決して珍しくはないけれど、それを寂しいと思うことも珍しくはない。

見たかったテレビはとっくに終わって、その後のニュースが流れているが
私はその向こう側、伏し目がちに膝の上の本を読んでいる恋人の方へと視線が向いていた。

たくましい体つきをしているくせに、本を読む動作も似合うとはどういうことだ。
文武両道と言われ、顔も決して悪くはない。
いわゆるパーフェクトな人物なのだ。

モテないわけはない。
かく言う私もそのオーラに当てられて吸い寄せられたようなものだ。
まあ、彼がどうして私を選んだかなんてことは知らないが、悔しいかな、惚れた弱みとはこのことだ。
寂しいのに、それと言えずに見とれてしまう。

ドレークの読む本は半分以上を読み終えているようだが、まだまだ全てを読むには時間がかかるようで。
暇を持て余した私はリモコンへと手を伸ばした。

いくつかのチャンネルを渡るが、興味をそそるものはなかった。
もとのニュースに戻して、頬杖をつく。
政治がうんぬん、芸能界がうんぬん。
徐々に瞼が降りてきた頃には、たぶん誰それの破局がどうだか言っていた気がするが

もうそんなことはどうでもよかった。















次に意識を浮上させたとき、目の前にはドレークの寝顔があった。

辺りは静かだ。

体の下は柔らかい布団が広がっていて、そこがベッドであることがわかる。
掛け布団のさわり心地が好きで寝坊をしてしまいそうになるのを、いつもドレークに叩き起こされていたことを思い出した。

時計を探せば、テレビを見ていた時より1時間ほど過ぎた頃。
電気はつけられたまま、ドレークが掛け布団の上で横になっている。
彼の頭の上には、閉じられた本。
しおりが半分より少し先で挟まれていた。

「…起きたか?」

声がして、視線を落とせば。
切れ長の目がこちらを優しく見つめている。

「…私寝ちゃったんだね」
「ああ、…退屈だったんだろ?」

彼に気づかれていた事実に思わず頬が熱くなる。
見たい、といっていたテレビが終わって、チャンネルをいくつか変えた後に眠ってしまえば当たり前に気づくことでもあるが
なんとなく、彼には気づかれたくはなかった。

「言えばよかったのに」
「だって、本に集中してたから…」

「本はいつでも読める」

ちゅ、と唇が額に押し付けられて、ドレークが布団に体を滑り込ませた。

「でもね、本読んでる姿…なんか似合ってたよ」
「…そうか?」

「うん、…なんか読書の秋って感じだった。」

バックには虫の声が優しく響いていて、窓際で立てた片足に本を乗せて。
伏し目がちな姿が、妙に色っぽかった。




「どうして、読書の秋って言うんだろ…」




すべてが彼の為にあるような錯覚さえ、する。


「秋は夜長だからな…」
「夜長…?」

「ああ、だから本を読んだ後も、時間はあるんだ」

ぎしり。

ベッドが軋んで、気づけばドレークの顔が天井の手前。




「夜更かしの季節って意味だよ」


一刻千秋


ただその一夜が



ただひたすら



長く感じて




***END***




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