■拍手御礼SS■

□梅雨の過ごし方
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[ロー]






切り取られた空間に

触れ合う腕と

湿った空気





+++
世界、
それはアンブレラ
+++



確かにその日は朝から雲行きが怪しかったはずだ。
どの天気予報でも80%以上の降水確率を予報していたし、道行く人々はその手に傘をぶら下げていた。
何ら疑うことはない、今日は確実に『雨』の日だったはずなのだ。

「すげー降ってんな」

目の前で激しい音をたてて降り続く雨を、まるで他人事のように見上げているのは
今日珍しくデートのお誘いを自分からしてくれたロー。
気だるそうにため息をついて、さてどうするかとこちらに視線を寄越した。

「いやいや、どうするて。何で傘持ってきてないの、ロー」

「来るとき降ってなかったろ」

え、何その可愛い反応。
いつものふてぶてしさはどこへやら、ローは軽く欠伸を噛み殺すともう一度雨雲を見上げた。

映画館の出入り口の屋根は大きい。
その下で人が2人立ち往生していてもあまり邪魔にはならないが、朝からどう考えても雨だっただろうに、まるで「うわー雨降りだしたよ」と言わんばかりの雰囲気を携えてしまっている二人を物珍しげに見る人も少なくなかった。

映画に行こう、と誘ったのはローの方で、珍しいなぁと思ってついてきてみれば
なんともグロテスクな猟奇的な映画だった。
精神異常をきたしてしまった医者が通り魔となって人々を切り裂くだのなんだの…正直苦手な部類の映画だったのだが、ふと横を見れば無表情のままじっとスクリーンを見つめている彼が寝ていない、ということは面白いのだろうなと呆れたものだった。

「とりあえずさ、私の傘入る?移動しないことには…どうしようもないし」

言ってみれば、彼はゆっくりと私が持つ傘の方へと視線を流した。
そこには先日買ったばかりのお気に入りの赤い傘が、くるくるときれいにまとまって鎮座している。

「お前…俺に赤い傘に入れってのか」

「そもそも持ってきてないあんたが文句言うな」

ぺしりと軽く腕を叩けば、彼は小さく舌打ちをして最後にもう一度だけ空を見上げてから
当たり前のように赤い傘を取り上げた。

「ロー?」

名前を呼んでも彼の行動が止まるでもなく、ローは気に入りの一つである留め具を乱暴に解いてから傘をパッと広げた。
赤と言っても落ち着いた紅の傘の中に、ワンポイントくまのプリントがされている。
そのくまの愛らしさとデザインの上品さが気に入ったのだが、どうやらローにはお気に召さなかったらしく、あからさまにいやな表情を露にされた。

だが、彼に文句を言う資格などない。

しぶしぶそれを頭を覆う形に持ち上げて、彼は二人の間にそれを移動させた。

「ほら、行くぞ」





それは少女のころの夢

好きな人との相合傘



(うーん、もうちょっと寄り添ってもいいものなのかな?)

(チッ…手ぇ繋げねーな)





***傘-END***





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