■拍手御礼SS■

□クリスマス
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[サンジ]






所用ついでに走った道は、滅多に通らない帰り道。

街はイルミネーションで彩られて、ああ、もうそんな季節かと思う。
恋人同士が手をつないで、肌寒い道を寄り添いながら歩いていた。

コンビニに止めた車の中から、ハンドルにもたれかかって
先日の雨で汚れたフロントガラスの向こうをぼんやりと眺めながらも
思い出すのはただ一人の顔。

もうすぐ来るクリスマス。
彼女は誰と過ごすのだろう。

くすぶり続けるこの思いを、いまだ告げられずにいることを
長い付き合いになる友人たちは「意気地なし」だとか「奥手」だとか笑うけれど
間違ってはいないだろう。

ただ単に怖い、失うことが。

NOの一言で砕ける、この想いと、この関係が。

確実なYESがあると知れれば

恐れることなどないのにと思うほど

「…ハァ」

情けない。

思わずついた溜息で口寂しさを思い出して、胸ポケットにしまっていた煙草を取り出す。
おもむろにつけたライターに小さく答えて、タバコが煙を燻らせた。

「ぉ…雪…」

ふわり、とフロントガラスに舞い降りた小さな一粒の雪がヒーターの熱に溶けて消える。
それを皮切りに、夜空が一斉に白を映えさせた。

「こりゃぁ…ホワイトクリスマスかな」

ふっと笑うと、煙が舞う。
少しだけ目に染みて、思わず細めた。

煙を逃がそうと窓を少しだけあければ、冷たい風が待ってましたとばかりに滑り込んでくる。

「寒…」

暖を求めるかのように、タバコを吸い、吐き、また吸いを繰り返してふと、思い出す言葉があった。

『サンジくんってモテるんだろうね』

想いを寄せる女性から言われて、嬉しくもあり、悲しくもある言葉だった。
彼女はたばこを吸う仕草が好きだ、と笑い、自分は恰好も良いしタバコがよく似合うから
きっとすごくモテるのだろう、と予測していた。

俺は特に否定もせずに礼を言いながら、複雑な思いに胸がきしむのを感じていたんだ。

かっこいい、そう言われるのはうれしい。

けれど

モテる、がどうした、と思う。

好きな子でなければ、いくら不特定多数に思いを寄せられても意味はないのだ。
きっとそれは、不特定多数の女性たちも同じ思いであろう。

振り向いてほしい。

願うような、募る想い。

『サンジくんがうらやましいなぁ』




俺は君がうらやましい。




君の心を隅々まで知る




俺は君がうらやましい。





視界を何組ものカップルが通り過ぎて、じわじわと無性に寂しくなった。
今この隣の助手席に、君がいたらどれだけ違うのだろう、と。

今通り過ぎたカップルみたいに手をつないで、あの町中の小さな、けれど煌びやかな観覧車を指さして微笑みあうことができるのに。

すっかり短くなった煙草を灰皿に押しつけて、携帯を取り出す。
あたりのイルミネーションが、チカチカと携帯に反射した。

雪はいつの間にか止んでいて、まだ積もるのは先のようだと
少しだけ残念に思う。

コールが耳に響いて、じんわりと鼓膜を熱くした。

『はーい、もしもし!』

窓を閉めて、深呼吸。
ヒーターが音を変えて、静まる車内に、ほのかな煙草の香り。

もういいや

NOがどうした、クソッたれ



「…ー…俺さ…」



Dear.サンタ!

この気持ち唱える

勇気をどうぞ枕元に!





END--



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