■拍手御礼SS■
□休日
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テレビの中ではくだらないジョークで笑うタレント達が、にぎやかに画面を彩っていた。
洗濯機から取り出したタオルをパン、と張れば、少しだけ落ちた毛羽が床に白い斑点を描く。
窓の外は雨。
ガラスを叩いては流れるそれらは、いつしか足を速めてアスファルトの色を変えた。
「はぁ」
せっかくの休日だというのに、雨に閉じ込められて訪ねる人もいない。
部屋の中に干し終えた衣類たちを一度だけ眺めて、足元のカゴを定位置へと戻した。
本当なら、今日は恋人と過ごすはずだった。
先週から楽しみにしていた映画は、今や「大好評放映中」と付け足されるほど。
チケットまでは買っていなかったけれど、お気に入りの服まで引っ張り出していたのだ。
けれど彼に出来た予定はずらしようがなくて、昨夜の電話にしぶしぶ頷くしかなかった。
朝食はすませた。
洗濯もしたし、掃除も終わってしまった。
時刻はまだ正午さえ遠い。
テレビの前のソファに座って、放り投げてあった携帯を開いた。
友人からの他愛ないメールが1通届いていて、ぼんやりしながらそのメールに返信を打つ。
出来るだけゆっくり、を意識していたのにあっという間に打ち終わってしまって、画面に表示された「送信しました」に思わずソファにうなだれてしまった。
ちらりと視線を寄越したDVDを陳列する棚には、もう見飽きるほどに見てしまったそれらが並んでいて、どうにも見る気にはなれない。
レンタル屋にでも行こうかと窓を振り返れば、窓を叩く雨が一層強くなった気がした。
「あー…」
ソファの上で伸びをしてため息に似た声が部屋を染めた。
携帯に友人からの返信はない。
梅雨、というのはどうしてこうも脱力感を伴わせる代物なのだろうか。
本日何度目かさえわからないため息をついて、目を閉じた。
ふと、携帯のメールの着信音が鳴る。
友人の返信にしては遅かったな、などと考えながら開いてみれば表示された名前。
本文を読み終えた頃に鳴る、インターホン。
「え、あ…はい、ああ待って」
思わず自分の今現在の格好を思い出して、慌てて手近のジーパンを履いた。
さっさと髪を整えて、ノーメイクな自分と鏡でにらみ合ってから
諦めたように玄関へと走った。
タレントの笑い声が、開いた玄関の向こう側
雨の音に遠ざかる。
その手前で髪を濡らした恋人が、苦くも笑ってコチラを見下ろした。
「いやー、スマンの。少し長引いてしもうた。」
「カ、クさん…」
昨夜、デートを申し訳なさそうにキャンセルした恋人が、今間違いなく目の前いにいる。
「映画はちと無理じゃが…家でまったりは出来るかと思うて…ダメかの?」
「あ、ううん!ど、どうぞ!」
お邪魔します。
そういって玄関を通り過ぎていくカクの後姿を見ながら、緩まる口元が止められない。
「じゃあバレーの試合、もう終わっちゃったの?」
「ああ、一応9時に試合開始での。さっさと終わらしてきたわい」
ワシらの邪魔をするからじゃ。
そういって渡したタオルで頭を拭きながら笑うカクに、注いだお茶を差し出した。
彼はその常軌を逸した運動神経の良さから、先輩後輩関係なく助っ人を頼まれることが少なくない。
そのため、今までいくつか約束をおしゃかにされてきた。
今日の約束も、先輩からどうしても…といわれ断れなかったと言う。
「21-0で3試合ストレートで完封じゃ。」
にっこり笑うその顔が嬉しくて、思わずその胸に飛びついた。
テレビはいつの間にか何かのドラマの再放送を流していた。
洗濯ものの向こう側、窓を叩く音は少しだけ和らいだみたいで。
テーブルの上で鳴く携帯は2通ほど友人からのメールを寄越したけれど
今は重ねた唇に忙しくて
私の休日は加速した。