■拍手御礼SS■

□冬の片思い
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キッド:上着









はぁ、と吐いたら白い綿あめがふわふわ舞って

違和感を残すことなく消えてった。


+++
一番星に
願う事
+++


隣にはキッドがいる。
サークルの帰り道、危ないから送れ、と周りに強制されたキッドと歩く帰路は、別に珍しいものでもなくなった。
強制の返答も、最初は殺気の籠った怒声だったけれど、今では「へーへー」の二つ返事。
面倒さ加減は多分に含んでいるものの、そこから悪意は感じられなかった。
だからこそ、私も断ることなく歩いている。
断る…?
できるはずもない。

この人に想いを寄せてしまっているのだから。

「寒くなってきたねー」

猛暑と言われた長めの夏は終わった。
身を包む空気の冷たさにそんなことを感じながら、もう一度息を吐くと白いそれが夜空に上る。

「おー…そうだな」

聞いているのかいないのか、どんな会話にも応用できそうな返答がぼんやりと耳に届いた。

「まだ暖かかったりするから、服装が追いつかなくて困るなー。今日はちょっと薄着しちゃったかも」

ブルリ、震えるふりをしてみてもキッドはふーんとばかりに前方から視線を寄越さない。
いつものことだから、慣れてしまっているのだけれど。

沈黙が戻ってきて、けれど居心地は悪くない。
見上げた夜空はもうすっかり、夕焼けを追い出してしまっていた。

弱い風が吹いて、本当に今日の服装を後悔する。
見た目重視にしてしまったものだから、少々薄手のものになってしまったのだ。
しかし想いを寄せる相手との帰り道が決まっているのだから、気は抜けなかった。

家まではあと20分程度。
歩いていればそのうち温まるだろうと、無意識に息を吐いた。

「ちょっと待ってろ」

「ん?」


夜空に上げていた視線をキッドに戻すと、彼はとっくに来た道を走っていた。
呆気にとられる間もなく、私は独りぼっちだ。

この辺りは車も多いし、人も少なくはない。
危なくはないとはいえ、こういう状況を恐れるが故の、あの友人たちの強制だったのではないだろうか。

呆れた気持ちがこみ上げて、それでも許してしまう自分を末期だと笑った。


「ワリィ…」

そう言って再び現れたキッドは、消えた時に羽織っていたジャケットを腕にかけていた。
息は切れていて、白い綿あめが忙しなく流れている。

「あー…忘れ物」

取りに行ってた。

短くそう言って、帰り道を促される。
ワリィ。
たったその一言で済まされたこの数分。
もっと他にないのだろうかと、彼らしい挙動に短い息が漏れた。



「ほら」

「…なに?」


先を歩きだしたキッドが振り向いて、手にしていたジャケットを差し出してくる。
何だろうと彼の顔を見上げると、相変わらず人を見下したような瞳と視線が絡む。

「着てろ」

「え、でも…」

「寒ぃんだろ、…走ったからよ、俺は今いらねぇし」


むりやり手の中に押し込められたジャケットは、先ほどまで着ていた彼の体温をまだしっかり抱きこんでいる。
指先から一気に緊張が全身を巡って、たちの悪い毒のようなそれに目眩がした。

「あ、りがと」

おそるおそる手を差し入れれば、ずいぶんと大きな袖口から指先だけが顔を出す。

後ろから見上げたキッドの耳は、先ほど沈んだ夕日よりも赤く見えた。


何を忘れたの、とか
大学まであの時間じゃ往復できないよ、とか

そんな野暮なことは聞かないでいるから


今日、この帰路の終わりが来たら

ずっと伝えたかったこの想いを

どうぞ最後まで聞いて欲しいと


一番星に願った。


***END***



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