連載番外編

□姉の使命とは
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小さな頃から哪吒は私の後ろにくっついて来てて、


この子を守るために私はずっと頑張ってた。



それが、私の使命だと思ってた。――なのに…、




「付いてくんなよ姉ちゃんッ!」


「なんでそんな事言うのよ――ッ!!」



弟、絶賛反抗期中。そして逃げる弟を追っかけている姉の私。




















身長の差もなく、身体能力の差も殆ど無ければ、もちろん脚力の差もない訳で、哪吒との差は一向に縮まらない。

そんな廊下を物凄い勢いで駆け抜ける私達を避けるように歩いている人達は壁際に避けていくが、それすらもどうでもいいのだ。目指すのは前を走る弟のみ!



「ちょっとなんで逃げるのッ」

「姉ちゃんが追いかけるからだろーがぁああッ!」

「あんたが止まればいい事でしょ!」

「だから姉ちゃんがッ」



こんな不毛な言い争いが十分程続いた後、ようやく息を切らした為に哪吒が諦めて止まった。それを逃さず私は最後の力を振り絞り、


「なーたーくぅッ!!!」

「うぉあッ!?」


彼の背中にダイブした。

勿論そのまま前のめりに二人して倒れたが、外の庭の芝生の上だったので怪我はないだろうが、下敷きになっている哪吒からは、うめき声が聞こえてくる。


そんな弟を見て、今度から一応抱き付く場所の確認をしようと、心に決めたのだった。






















「痛ってぇなァ――ッ!お前歳いくつだよッ!」

「うるさいわねッ!私はいつまでも少年の心を…」

「少年の心以前に姉ちゃん女だろッ」

がばッと起きた哪吒に倣い、私も彼の正面に座った。

「馬鹿言ってんじゃないわよ。女でも少年の心は持つべきでしょーが」

「なに言っ………はァ―――。俺が何言っても言い返すつもりだろ…」

「わかってんならそろそろ観念してよ」


私の特技は口八丁手八丁とは誰かが良く言ったもので、哪吒もそれは理解していて溜息吐いた後、「ん」と両手を広げた。



それに気を良くした私は、弟の胸へと勢いよく飛び込んだ。



いつの間にか大きくなった弟に、抱き締められる私は姉としてはなんとも滑稽なのかもしれない。でも――――、



「哪吒は本当に私の事が好きだね」

「ばッ!馬鹿ッ、俺はそ、んなッ……」

「ははッ!噛みすぎッ」


グリグリと哪吒の頭を撫でると、真っ赤な顔してそっぽを向く可愛い可愛い私の弟。ここに誰も居なくて良かった。素の哪吒に思わずニヤけてしまう。




















「ねぇ哪吒」

「ん?」

「二人だけで居れたらどれだけ楽なんだろうね」


ふといつも考えている、叶わない願い。今この時が幸せ過ぎて口に出してしまった。

……哪吒と私だけ。あとは誰も知らない。そんな世界があればいいのにと何度思っただろうか。


父上の目の届かない場所なんて、この世界のどこにもありはしないのに――――



「俺、思うんだけどさ」

ふと哪吒が空に手を伸ばした。

「それ、すっげー魅力的に思えるかもしんねーけどさ。いつかは寂しくなるんじゃないかな」

一瞬、ズキリと私の胸が痛んだ。そんな心情が顔に出てたのか、気づいた哪吒が空に伸ばしていた手で私の頬をつまんだ。


「姉ちゃんが嫌って訳じゃねーんだ。たださ、俺等は姉と弟だから、いつかは自分達で決めた道を行く時が絶対来る。そーなった時に俺等の周りに誰もいなかったら、

世界、広がんねーじゃん?…下界はさ!どこまでだって続いてんだ。色んな人が居て、色んな季節、土地があって…。


―――だったら俺等も色んな生き方、あるんじゃねーかな」


いつからか、天界で弟が闘神と呼ばれるようになった。


下界で功績を上げれば上げる程、天界の人達は弟ばかりに頼り、自分の手は汚さないで持て囃すだけ。


そんな事、哪吒だってわかっている筈なのに、弟はそれすらも自分の糧として今を生きている。






















「色んな物、見てるんだね。哪吒は」

「姉ちゃんだってこれからなんだって。やりたい事ねーの?」

「やりたい事……」

哪吒に言われて初めて思った。私、何かをやりたいと思う事なんて考えた事なかった。


「ま、ゆっくり考えればいいじゃん!自分の好きな事考えてたら絶対出てくるって!」


ニカッと笑った哪吒に私は、励まされていた事に気付いた。温かくなる胸に、ひとつ思いついた事がある。



――――私がやりたい事は、哪吒を守る事。



昔から変わらないそれだけは、何かのヒントになるかもしれない。ただ……、



「姉ちゃんに向かって生意気なッ!」

「な!俺今いい事言ったのにッ」

この笑顔だけは守り抜く。抵抗しつつも笑う哪吒の顔を、心に刻み付けた。


























後書き

この後、春が軍の入隊を決意するのに、そう時間はかからなかった。
 

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