神の扉
□情
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「騒ぎの責任を取り退席させて頂く。―――行くぞ」
その一言で熱い視線を浴びながら広間を出て、長い廊下を歩き、金蝉の部屋まで来た五人
なのだが、
「―――って、どこまでついてくるんだお前ら!?」
自分の部屋に着いて漸く、いつまでも着いてくる部外者三名に突っ込む金蝉。
「自分が『行くぞ』って言ったんじゃないですか」
さも当たり前の様に言う天蓮に、私はなんとなく、金蝉てどっか抜けてるんだな、と思ったり。
「ま―ま、硬いのはアレだけで充分だぜ、お兄サン。これも何かの縁だ、今日は呑もうじゃね―の」
そんな下ネタ混じりの馬鹿大将に、
「馴れ馴れしいんだよ!!」
「キモい」
ゲンコツを見舞いする金蝉と私。大将は余程痛かったのか、潤んだ瞳で見つめてきた。でも今は無視しといてやった。
少し気になりチラリと大将を見ると、床で膝を抱え、縮こまって座っていた。―――あ、いじけてる。
「折角天ちゃん達と会ったんだから遊びて―よ―。な―金蝉ッ」
悟空が駄々をこねて金蝉に縋る。その小さな悟空のお願いに保護者様は、
「……勝手にしろッ」
冷たくそう言い放ち、書類が積まれたデスクにドカっと座る金蝉。
「―――金蝉は悟空に弱いんだねぇ」
ニヤけながら彼の机の前で頬杖ついて軽くおちょくってやると、きっちりガンつけてきた。
そんな視線に笑顔で訴えてやると、顔を逸らし
「──そんな事ねぇ」
と、憎まれ口叩く彼。だが言葉とは相反して、耳が赤いから照れてるのがまるわかりだ。
「…俺はヒマじゃねぇんだ。仕事のジャマした奴から締め上げるぞ!!」
そんなこんなで、金蝉の了承を得た私達は四人で遊ぶ事になったのだが…
「…じゃあ、何して遊ぶんですか悟空?」
「ドロケイか?チャンバラか?」
この時点で、ジャマになる遊びだ。締め上げられる事が決定しそうな勢いに、
「カブは?」
トランプで遊ぶ割と暴れないものを提案してみた。お金も入るしね。だが、「賭博はダメですよ」と、笑顔で天蓬に言われ、あえなく撃沈。
「う―んとね、この間倉庫でバッドとボールみつけたんだ」
「野球ですか、いいですね―」
「任せろよ。天界のイチローとはこの俺様の事だ」
「イチローより掛布さんだよ、大将は」
「お前、歳いくつだよ」
盛り上がる四人に比べ、黙々と書類に取り掛かる金蝉。野球しようとしてるのに、身の危険を全く気付けていない様子だ。
「じゃあ俺投げるッ」「僕キャッチャーですね」「私審判やる」「お―し来いッ!!」と、盛り上がりも頂点に達した野球組。
野球だったらバッターの位置によっちゃあ大丈夫だろう!
大丈夫だろうと思った私が馬鹿だった。
―――――とりあえず気が付けば金蝉を背にバッターに向かって投げた、投手悟空。必然的に捲蓮は金蝉に向かってボールを打つ事になるのだが…。
ヤバイと思った瞬間には大将が打った打球は金蝉へと一直線。
「――――!!」
金蝉がこっちの会話を察知して退いた瞬間、インク入れにボールがヒット。
内野がいない、というか四人ではなかなか危険な、野球というスポーツ。
金蝉の眉間の皺が瞬時に増えた。
「あ 悪。」
「金蝉―――ボールパスパス―!!」
金蝉は飛んできたボールを拾い、ぎっと強く握った瞬間
「ブッ殺す!!」
こちらに向けて投げてきた。二人の間に居た私は思わずしゃがんでボールを回避。
「わ、スゲッ」
「余裕っしょ!!」
私の頭上を通り過ぎたボール。だがそれは捲蓮により、カキンと打ち返された。それまでは良かったのだが、
「あ」
「あら」
ガシャン。
窓ガラス粉砕。
「あ――いけないんだ――」
悟空の咎める言葉に、
「コイツが打ち返したのが悪いんだろォが!!」
「てめ、打ってくれと言わんばかりだったじゃねぇかよ!?」
「元はと言えばこの猿が野球やろうなんざ」
「アッ、ヒデ――!!自分だって楽しそうに…」
「うるせっ」
ギャーギャーと騒ぐ三人。その光景を見て天蓮が一言
「…ま、アレですね『仲良き事は美しきかな。』」
「だね…」
「ねぇよ」
騒ぐ彼等を見て笑う私は、こんな時間があってもいいかな、なんて悠長に考えていた。
大将、天蓬、金蝉、悟空。
この四人と居る私はなんて生き生きとしてるんだろうか。
だけど、私はこの後起こる咎めをまだ知らない。
天界からのお咎めは何もなかった。なかったのだが……、一部始終を見ていた三神に天蓬もビックリな程叱られたのだった……。