神の扉
□スタート
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「春様───いい加減起きて下さァい。マジで遅刻しますよ?」
「ん───?今日、何もなかったじゃん…」
三神に体を揺らされ起こされた私は、チラリと時計を見る。
──まだ9時前じゃんか…。いつも昼過ぎまで寝ても怒んないじゃん。
まあ以前に寝起き最悪で三神を拳でぶっ飛ばした時があったからなァ…。
思い出に浸りながら、起きなきゃ可哀想かな、なんて思いながらも枕に顔を押し付けた。
「あれ、お忘れですか…?───今日は軍の初出勤ですよ」
―――ああ…私軍に入ったんだっけ…
「……………。」
ガバッと起きて三神を見据え、
今何時ッ!?」
そう慌だしく聞くと、
「8時50分ですね」
彼は時計を見てニコリ答えた。
「ちょ、朝礼はッ!?」
一番重要なこの時間を聞くと…
「9時ですよ。」
にっこり笑顔の三神。それに対して私の顔は最高に引きつった。
「うわああぁぁあ!!早く起こしてよ!」
そんな私を見て、学習能力ナシですねと呆れる三神。
――――――て、てめッ!!帰ってきたら、ぶん殴ってやるからなッ!
言ってる間に用意し、出ていく私の頭は、鳥の巣爆発状態だ。
「行ってらっしゃい…」
見送りの言葉は、彼女の耳に届く事なく静かな部屋に飲み込まれた。
「すいません!!遅れました!」
走って来た為、かなり勢い良く扉を開けてしまった私。それにより、スライディングの様な形での登場となってしまった。
静かになる室内に「やっちゃったかな…」と思いながらゆっくりと顔を上げた。
視界に入るのは、何十人もの痛い視線。彼等は自分と同じ軍服を着て、そして自分よりはるかに高い身長。
そんな男達が一列に並んでいる光景に、逆に私が唖然とした。みんな真面目なのね。
「春さんですね」
「あ…はい」
そんな集団の前に立つ、眼鏡をかけて白衣着て…
べ…、便所サンダルを履いた野暮ったい男に話しかけられ、私の止まっていた思考がようやく動き出す。
「今、皆さんに自己紹介をしてもらっていた所です。
えっと…―――僕は天蓬と言います。一応貴女と上司になりますが…天ちゃん、て呼んで下さい」
ニコリと微笑む彼は、元帥…だった筈。ジジィ達の誕生祭でよく見かける上役だ。
いつも飄々とした本オタクとは聞いていたが…、えらく頼りないそれが彼の第一印象だった。
「俺は捲簾。一応これでも大将やってんだ、よろしくな!!」
そしてこの人が私の大将になる人か。暴れん坊と謳われる彼はよく話が舞い込む。
酒好きでとりあえず喧嘩に介入する奴で……、て事は配属先、三神と一緒じゃんか。
アイツは何でここにいないんだ?
「では列に入って下さい」
「はい」
適当に話を流し、先程入って来た扉から離れて歩きだした。列の端に加わり挨拶をしようとした、その時、
「こんな嬢ちゃんが軍入隊とは…」
「落ちぶれたもんだな」
「ああ…」
小声でも、確実に耳に入る音量。列に並ぶ何人かが言った。
正直興味がない。私の事で何を言われようが何とも思いはしない。だが、
「――どォせ父親に泣き付いたんだろ」
「李塔天の娘だっけ?」
「そうそう。それであの殺戮人形の姉…。本当いいねぇ…お偉方の子供は……ッ?!!」
殺戮人形………。天界の奴等がそう呼んでいるのは知っていた。
だけど、私の前で言うのは……アウトだ。
沸々と湧き上がる怒りを抑える為に必死で真新しい軍服の袖を握った。