BLAST編 ブック

□見惚れる程の
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波珊という紗烙三蔵法師の直属部隊、『恒天部隊』と名乗った彼らに着いて行くと、一行の目の前に山々を切り開きそびえ建つ寺院が待ち構えていた。

それは寺院と言うよりも要塞と呼べる代物で、それに圧倒されつつも中へと入った。


案内されてすぐ、高山病に効くと言われる薬の服用を勧められた三人はおとなしくそれを受け入れた。

まあ飲んだ後、各々違う反応の仕方ではあるが味が良くないのはなんとなく理解した永嘉達は再度顔を見合わせ苦笑いをした。



「あ、すみません。その薬に詳しい方っていてますか?良かったら今後の参考に教えてもらいたいんですけど…」

近くの男に声をかけた永嘉は、自分が持ってる薬との比較をする為に尋ねると、それは高所で咲く花をすり潰した物だと教えられ、今度注意して探してみようとまた自分のストックを増やす計画を立てた。


「これに懲りて次からちゃんとあたしの薬飲む事ね」

腰に手を宛ててそう三人に言えば、渋々頷く彼らに笑顔を零す永嘉。




















そして、高山病の症状が和らいだ後、紗烙三蔵法師に謁見させてもらえるとの事で、波珊を先頭に一行は紗烙の元へと案内されていた。


「…すっげ―――っ、アジトって感じ」

外装も然ることながら、内装も今まで立ち寄った寺院とは違う雰囲気に、三蔵に肩を貸しながら歩く悟空が辺りを見渡しながら言葉を漏らした。


「他の三蔵法師に謁見するのは、これで二度目ですね」

「そういやあのカラス野郎も三蔵法師か…、忘れてたぜ」

カラス野郎というのは、忘れもしない烏哭三蔵法師の事だが永嘉はあまりいい思い出もないあのにやけた表情を頭から追いやった。

一応三蔵法師に会うという事で人型に戻った周も隣で同じように眉間に皺を寄せていた。ポンと肩に手を置いてやると、どうしたとばかりに見下ろす彼に、自分の眉間を指差し、

「皺寄ってるよ。そんなんじゃいつか三蔵みたいに……」

「永嘉…、お前ほんと三蔵の扱い慣れたな。」

「当たり前じゃない。こんだけ毎日居たらどっかで慣れないと…」

「…言ってろ。――――歩ける」

前を歩く三蔵が、悟空の肩に預けていた腕を離すと、一瞬ピクリと固まった永嘉。そんな事も気にせず普通に歩き出す三蔵に、お咎めがなかった安堵の溜息を吐いた。



「結局恐いんじゃん」

からかうような声が降ってきて思わず顔を赤くした永嘉は、

「うるさいわね。反射的にこーなったのよ」

苦し紛れの言い訳を言った。もちろん周にはそんな行動すらも可愛くて仕方がないので大きな身体で永嘉に突進し、抱き締めた。


















「俺、ずっと永嘉に着いてく―――ッ!」

「ば、バカッ!あんたいきなり…」

それに飽き足らず、頭もぐりぐりと撫で回す周に冷や汗を流しながら引き剥がしにかかる永嘉だが、何せ周の力が強すぎてそれが敵わない。

早くしないと――――、そう彼女が焦るが時間切れで、突如引っ張られる体に「うわッ」と声をだす永嘉。そして視界には顔を鷲掴みにされる周の姿。

もちろんそれをしているのは、彼女の背後にいる人物で、

「ひっつき過ぎ。」

振り返ると珍しく青筋を立てる悟空がいた。

悟空の手首を両手で掴み剥がした周は、そんな悟空の表情を目にして石のように固まった。




「仲良いんだな…」

「あはは、いつもの事ですので気にしないでください」


波珊に何かといつも言っているセリフを八戒は笑顔で言った。



なんとか落ち着いた悟空を先に追いやりつつ、周を宥める永嘉。そしてようやく部屋へと辿り着いた。

「―――――お連れしました、紗烙三蔵法師!!」

波珊の後ろに六人横並びになり、カーテンの向こう側から出てくるであろう三蔵法師を待ち構えた。そして、出て来たのは―――、



















「…お、女……!?」

悟浄が驚くのも無理もなく、紗烙三蔵法師はまさかの女性だったのだ。

長く漆黒の髪に意志の強そうな切れ長の瞳、女性にしては引き締まった肢体、そして見惚れる程の美貌にそぐわない顔と肩にある傷。

どれもが釘付けになる要素だった。だが、刹那紗烙三蔵法師が身を低くし腰に下げていた銃を握った。そして気がつけば三蔵と紗烙がお互い銃を突き付けるのを見て、ようやく悟空が声を上げた。

だが尋常ではない空気に圧倒され、それ以上声を出す事ができない。そしてそのまま立ち尽くしていると、一瞬空気が和らいだ。それは紗烙がフッと笑みを漏らした事によってだった。


「第二十八代羅漢、紗烙三蔵だ」

「―――――第三十一代唐亜、玄奘三蔵」

訳も分からぬまま自己紹介し合う二人の三蔵法師だが、波珊は紗烙の素行を知っているからか、呆れた顔を見せた。

「ようこそ西域へ。歓迎するぞ、玄奘三蔵一行」

そう決めた紗烙三蔵法師に、


「……三蔵法師ってさ」

「言うな」

「文字通りぶっそうなんですね…」

「ダジャレかよ」

再び披露される八戒の言葉に悟浄は呆れつつもツッ込んだ。そしてここに違う反応をする男が一人。

「周?」

先ほどから微動だにしない周に気付いた永嘉が声を掛けた。彼の視線の先を追ってみると、紗烙三蔵法師がいた。























「紗烙三蔵法師がどうし…」

「綺麗だ……」

永嘉の声が耳に入っていないのか、かぶせてきた周の言葉。だがそれに驚いた一行が周の顔を覗くと、まさに『一目惚れ』というのが当て嵌る表情で紗烙を見つめていた。


「これはこれは」

「まさか永嘉大好きの周がねぇ」

「でもどっか似てるよな、永嘉と紗烙三蔵法師って」

悟空の似てる発言に、思わず紗烙を見る永嘉。


「ん?」


永嘉の視線に気がついた紗烙は、紅一点である永嘉を見て目を見開くが、次の瞬間ニカリと笑み、

「女の子がいるじゃねーか。しかもえらいべっぴんさんだな」

嬉しそうな声と共に向けられる笑顔に、今度は永嘉が目を見開く事になった。そして、カツカツと紗烙に歩み寄った彼女は何を思ったのか紗烙の両手を自分の両手で包み込み、胸元まで持ち上げ、


「……『姐さん』って呼んでいいですか?」

キラキラとした瞳で見つめた。


これにはさすがの三蔵も怒り、永嘉の首根っこを引っつかみ紗烙から引き剥がしズルズルと引きずった後、悟空へと放り投げた。

永嘉が女らしからぬ声を上げたが、それさえもどうでも良い三蔵は、永嘉と周の二人のまさかの行動も含め、今後の事を考え頭を抱えるのであった。



―――――――……


















「へ――――っ、三仏神ってこっちでも会えるんだ」

「ここから西南へ30キロ程行った、山頂の『旭影殿』でな」

三蔵と紗烙の二人を残し、波珊に別室へと通された残りの五人は食事をもてなされていた。

「三仏神との謁見所はこの桃源郷内に5か所あると聞いた事があります」

「まー別に今更会ったってなァ…、遅ぇって苦情言われるだけじゃね?」

「金遣い荒いとも怒られるぜ、多分」

八戒、悟浄、悟空の言葉に永嘉は、そういえば自分は会った事ないや、と思っていた。

「三仏神ってどんな人達なの?」

隣に座る悟空に問いかけると、

「ん――――、なんか頭だけ?」

「え、恐いんだけど」

「悟空…、それは見た目というかなんというか…、間違ってないんですけどね」

彼女の中で三仏神の幽霊的なイメージ像が出来上がっていく事に、八戒が補足するも首を傾げる永嘉に周が、

「ま、簡単に言うとあの人達は基本的に自分達の映像を飛ばしてるだけだから、本体が首だけって訳じゃねーよ」

「ああ、成る程。」

永嘉は漸く理解したとポンと手を打った。

「でも長安から来たんじゃ時間もかかって当然さ。生きて辿り着いただけでも大したもんだ」

そう波珊が言うと、八戒はこの寺院の周辺の妖怪の事情を聞いた。
波珊曰く、寺院は土楼という造りでその全体に恒天経文の力で目に見えない障壁が施されていると言った。そのおかげで妖怪が入り込めないとも。さらにそれは周辺の村々も同じとの事だった。
気になるのは、紗烙の力のみで広範囲にバリアが張れるのか。悟浄が問うと、媒体を使って各集落に備え付けた仏具を電波の通信機代わりにし、可能にしていると言うのだ。ただ、その話を聞いて、

「なるほど…、だから紗烙三蔵はこの地を動けないという事ですね。」

八戒の指摘は当たっているようで、波珊は頷いた。

















「カッコいいな、紗烙三蔵法師」

そんな真面目な雰囲気をぶち壊したのは先程から食事に一切手を付けず、ボーっとしている周だった。

「げっ、お前まだ言ってんのかよ。」

「だって見ただろッ!?あの美しさッ!!そこら辺の女には醸し出せない妖艶なオーラ!そんでもって気の強そうな眼光とあの腹の底に透き通るような声ッ!

―――――永嘉の十年後はああなってる事を俺は強く望むッ!!」

拳を握り締め、豪語する周の横でうんうんと頷く永嘉。そんな周を見て「ああ、結局永嘉なのね」と納得した悟浄と八戒。そんな中、腕を組み一人考える悟空は、

「俺…、永嘉はああならないと思うけどな〜」

悟空の発言に皆が視線を向ける。

「だってさ、永嘉って紗烙と比べても全然違ぇしそれに…、紗烙の歳になる頃には俺等、もう旅終わってんだからもっと丸くなってると思うんだけど」

的を得た発言にきょとんとする周りの中に、一人笑顔の永嘉がいた。

「そーだね。その時にはもうこの旅にケリつけて、平和に暮らしてるだろうね」

「なっ?永嘉も思うだろ?どーせ俺等そん時も一緒に居るんだろー…し………」

段々と尻すぼみになっていく悟空。自分でかなりの爆弾発言をしている事に気付いたようで、声が小さくなるのに比例して顔が赤くなっていく。

そんな悟空に意図を理解した永嘉も同じく顔を赤くさせた。


「へーへーごちそうさま。」

「出ましたね、悟空の爆弾発言。」

「いーぞぉ悟空ッ、もっとやれ〜!」

「うるさいッ!お前らひやかすなよッ」

悟空が呆れ果てる二人と、一人違う反応をする周に対し叫ぶも、これでは肯定しているようなものだとさらに恥ずかしくなった永嘉は顔を見られまいと俯くのだった。
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