BLAST編 ブック

□鳥たちの集う場所2
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「あぁ永嘉、いないと思ったら…もう起きてたんですか?」

「八戒、……なんか良く寝たからかもしれないけどあれから眠れなくてさ。」

悟空が出てから数十分後、みんなが食堂へとやってきた。

「お前、車ん中で寝るつもりだろ。」

「あはは、バレた?」

三蔵に突っ込まれ、手を後頭部に添えておどけてみせる。

「そういえば、悟空に会いませんでした?宿の方からは朝食までには戻るからと言っていたと聞いたんですが…」

各々席に着き、開口一番八戒が心配した様子で聞いてきた。

「あぁ…うん、出かける前に会ったよ。たぶん丘の上に行ってると思う。」

「他に何も言ってなかったのか?」

周に言われ思い出すも、深刻そうな顔をした悟空を思い出し「特に…」と答えた。


















「それにしてもお前ら昨日いつ帰って来たんだよ」

悟浄がメニューを見ながら、思い出したかのように言った。

「あれから永嘉と飯食ってすぐ帰ってきたから、たいして時間はかかってねーよ。」

「あーーー、あたしもご飯食べてる周見ながら寝ちゃったみたいで記憶ないんだよね―」

あははと笑う永嘉に悟浄は「まぁそりゃ疲れるわな。」と崖登りをしていた事を思い出して溜息を吐いた。

とりあえず朝食という事で、五人は悟空を食事をしながら待つ事に。オーダーを終え食事が揃い、食べ始めてもまだ帰ってこない様子の悟空に、

「…しっかし、遅ぇな悟空のヤツ」

悟浄がぼやいた。

「またぞろ鳥とでも遊んでんじゃねぇのか」

「やはり一人で行かせてしまったのが心配ですね…、あ…永嘉を責めてる訳じゃないですよ?」

八戒の優しさに「でも…」と永嘉は飲みかけのスープに蓮華を置いた。

「あたしが止めなかった訳だし…」

「大丈夫だって。いくら妖怪っつったってあんな草食系に悟空がヤられる事もねーだろ。神隠しの犯人も捕まえた事だし?」

そう言って悟浄は永嘉の頭をわしゃわしゃと撫でた。周はその悟浄の手をやんわりと払い自身も彼女の頭を撫でた。
もちろん勃発する二人の口喧嘩に、八戒の「朝から騒がないでください」という冷たい一言に早々に決した。

「―――あら、落し物ですよ」

宿のおばさんが差し出したのを悟浄が受け取り摘み上げた物は、子供用の手袋だった。

「どうしたんですか、手袋なんて」

八戒が聞くと昨日丘の上で拾い、悟浄も落し物だと思い持ってきたと説明した。すると、女性が遠慮しつつもその手袋を見せて欲しいと話しかけてきた。

するとその手袋は半年前に亡くした子供の遺品で、しかもその子供と一緒に埋葬した物だと女性は言った。




















それを聞いた三蔵はいきなり立ち上がり、村の埋葬場所を宿のおばさんに聞いた。そして場所は村外れに墓地を設けているという返答に、

「案内しろ。すぐにだ。」

有無を言わせない申し出に宿のおばさんは驚いていたが、事情を理解した永嘉はおばさんに「お願いします」と頼めば、ようやく頷いてくれた。

「悟浄は念の為、丘に向かって下さい。」

「オイオイ、なんだってんだよ?」

未だに理解していない悟浄に、「俺も行く」と周が立ち上がり悟浄の腕を引っ張った。

「永嘉はどうする?」

ふと振り返った周に、永嘉は首を横に振り、

「あたし、待ってるって言ったから」

そう告げると、多くを語らずとも理解したのか、周はそのまま悟浄と一緒に宿を後にした。




―――――……



三蔵と八戒と永嘉は村の男手を集めてもらい、案内された墓地を次々と掘り返して行くのを見ていた。


「三蔵、あの妖怪が…」

「黙って見てろ。直にわかる」

永嘉は無意識に隣にいる八戒の服を掴み、そしてそれに気付いた彼は、

「大丈夫ですよ。悟浄も周も向かってます。」

そう言って笑顔を返してくれた。とは言っても、自分が悟空を引き止めていれば、こんな不安をみんなにも与えなかった筈。悔恨を感じていた永嘉は、

「―――ごめんなさい…」

そう呟いた。






















「…さっき周に言ってましたね」

彼女の謝罪を聞いた八戒は、永嘉の肩にそっと手を添えた。手を添えられた事にそのまま見上げると、彼はとても優しい顔で見下ろしていた。

「『待ってるって言ったから』って。じゃあ僕等も待つの付き合いますから、…ね?」

貴女のせいじゃないですよ、と言われるよりも心強い言葉に、永嘉は胸が熱くなるのを感じつつ、力強く頷いた。



話をしている間に一つ、また一つと墓が掘り起こされ、

「ない……、遺体がなくなってる!?」

「こっちもだ!!先週埋葬した筈の所にも……」

墓の中にある筈の遺体がなくなっていた。



「遺体がない、という事はやっぱり―――」

「…間違いないですね」

「他人の倫理を侵したら、それはもう理念なんかじゃねぇ。たとえ相手が死者でもな。」


屍肉しか食べない鳥達。そのエサを維持する為に、丘の上の妖怪がやったその行い。



――――悟空は大丈夫。



目の前の人道に反する行為に、また浮上する不安を押し込めて、永嘉は心の中で何度もそう唱えた。






















―――――……




ガシャアン!!


永嘉達が墓を暴き、真相を目の当たりにしていた頃、悟空は突如襲いかかる痺れに倒れそうになる身体を支える為、必死になっていた。

丘の上の妖怪、淀仁の家に赴き彼に村の神隠しの犯人が捕まったと伝えに来ただけなのだが、そこで出されたお茶に神経系に効く毒を盛られてしまったようだ。

痺れと戦うも、すぐに身体から力が抜け座っていた椅子から崩れ落ちた悟空は床に俯せに伏してしまう。

そんな中、淀仁が語るのは我が子が亡くなり鳥葬で送ったのを見届けた事。それから彼は自分の倫理観を語りながら、自分にゆっくりと近寄って来る。

吹き出る嫌な汗と言う事を聞かない身体。なんとか仰向けに体制は変えたが、


手……足――――痺れて全然動かねぇ……!!


反撃するには、全くもって使い物にならない自分の身体に焦る悟空。ふと浮かんだのは、


『みんな待ってるから行っておいでよ』ーーーそう言った今朝の永嘉の顔だった。


そして淀仁は無抵抗の悟空へと、とうとう刃の切っ先を向けた。悟空がぐっと目を閉じた刹那、ゴトリと床に落ちたのは淀仁の腕だった。突然の痛みと目の前の事実に淀仁は叫び声を上げた。

「―――――なにが『自然に還った』だよ。鳥に息子の名前付けて身代わりにしてる時点で矛盾してんじゃねーか」

馴染みの声に唯一動く顔を向けるとそこには、汗を流しながら扉に寄りかかり淀仁に告げる悟浄と、心配そうにこちらを見つめる周の姿があった。

悟空に切っ先が届く寸での所で悟浄の錫杖が淀仁の腕を切り落としたのだが、後一歩遅ければと思うと背筋が凍った周は安堵の溜息を吐いた。

「――――アンタはただ息子の死に様に囚われただけだ」

尚も続ける悟浄の言葉に淀仁は「違う!!」と否定するが、「俺さ、」と呟いた悟空に彼らは意識を悟空へと向けた。

























「昨日あんたに言われた事…よく考えて、


――――もし…俺の、俺の大事な人が―――死んで、その魂がどこに行くかなんてわかんねーけど


…でも……どこに還ってもどんな形になっても、


きっとずっと、俺の中にいるよ」


悟空の言葉に声を失くしたのは、淀仁だけでなく、


「ッ!」

周も悟空の言葉を聞いて、ふと頭に浮かぶのは自分の転生前に出会った彼らや、彼女の姿だった。


彼の中に記憶はなくても、その欠片が今も生きている。


――――それだけで周の心は震えた。


そんな彼らを一部始終黙って見ていた天羽が飛び立ったのを機に、悟浄は悟空をおぶさり、周もそれに続き淀仁の家を後にした。
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