BLAST編 ブック
□ちぇんじ
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まさかこんな奇天烈な事は自分に降りかかるなんて思ってもみなかったけど…
―――――今あたしは犬になってます。
事の経緯は西域への道を突き進んでいたあたし達が、危機に直面していた頃…。
「え、コレ登るの?」
「はい。地図では此処を超えないと西域へは行けないので」
八戒の笑顔に気圧され何も言えず、只々切り立った岩山、というか崖を見上げた。
実際、妖怪になってから体力も身体能力も飛躍的に上がったのは認める。前までは疲れて歩けないって事も多々あった。
それに何が凄いってジャンプ力と腕力ね。
女のあたしが人一人飛び越えるくらいのジャンプをしてみたり、岩にヒビ入れたり…
確か成り立ての時、妖怪との戦闘で飛び越えちゃって着地に失敗して顔面と地面がこんにちはした事もあったな。
って違う違う。そーゆー話じゃなくて、
「アレは駄目でしょ、アレは。」
「あはは、四の五の言わず登りましょうか。日が暮れない内に。」
「ひっ!は、八戒が怖い!」
「八戒も苛立ってんだろ。あー見えて。」
周は悟空に抱かれながら飄々と言う。そーだろーね。そりゃお前犬だもんね。身体能力あたしよりはるかに上だもんね。すぐ登れるよね、こんな山。
「ほら、永嘉行こーぜッ!」
悟空の笑顔も今は嫌味に見えちゃうあたしはかなり重症だ。そう思いながらも結局差し出された手を取るんだけれど。
「はァ…覚悟決めるしかないみたいね。」
うだうだ言っても西域が近くなる訳でもないし、腹括るしかない。
―――――――――……
幾分か登り出した頃、上から悟浄、八戒、周、あたし。そして後ろには三蔵、悟空の順番で登っていた。
「おーい、お前ら大丈夫かぁ?」
「なんとか――――!悟浄こそ大丈夫―――?」
「体力ないお前と一緒にすんじゃねーよ。あ、それよりそこら辺足場気ィ付けろよぉ!」
悟浄に言われた通り、足場を確認しながら登っていると、
「!!!うわッ……!!―――――三蔵!!」
突如慌てた悟空の声。反射的に振り向いた刹那、
「えっ」
ぐいっと服を引っ張られたあたしは重力に逆らう事なく落ちていく。
「永嘉ッ!!!」
咄嗟に悟空が三蔵ごと囲ってくれたけど、崖に何度か身体をぶつけながら地面に激突。
悟空、三蔵、そしてあたしの順番で積み重なった……あれ?お、重いッ!!!
各々退いて地べたに座り込んで打ち付けた所をさする。………ん?
――――――身体鈍い…?
「…人、巻き添えにしてコケてんじゃねーよ、この馬鹿猿!!」
「ちげーよ!三蔵が足滑らせたから手ェ貸したんじゃん!?」
「ちょ、あたしが巻き添えでしょ!三蔵!引っ張ったで………しょ……って、」
あれ、ちょっと待て。目の前にあたしがいるんだけど。
「………ん?」
下りてきた悟浄が首を傾げるのも無理はない。
「―――これはもしや……往年の『転校生』ネタじゃあないですか!!!連載14年目にしてこんな使い古されたネタが原作で実現するとは…!!」
「お前それ誰の代弁だよ。ホントに20代か?」
八戒と悟浄が暢気に漫才を繰り広げる中、あたしは誰になってしまったのかと自分の格好を見た。
「え――――っ。ホントだ、俺永嘉になってる!!」(空→主)
「うそ、あたし三蔵になってる!!やだぁ男なんてやだよぉお、おわッ!!」(主→三)
「『あたし』とか『やだ』とか俺の顔で言うんじゃねーよ!!」(三→空)
泣き喚くあたしに三蔵が悟空の身体でハリセンをお見舞いされた。
――――――以上の事から、あたしは三蔵、悟空はあたし、そして三蔵は悟空になっていた。
ちょ、仕方ないんじゃないのコレッ!?あたし悪くないよね!!?と、反抗しようと顔を上げたら、
「あ?」(三→空)
悟空の顔。いつもの天真爛漫な笑顔と違い、眉間に皺寄せて気怠そうにしてあたしを見下ろしている。
悟空だけど、三蔵なのは分かってる、分かってるけどッ!!!
……悟空のSっ気満載の顔、見れたからいい、か。くそぅ、その顔は反則だよッ!逆らえないじゃないか――――ッ!!!
「……なんか永嘉が不憫になってきた俺。」
「あはは…。あの子ホント顔出やすいですからね。」
「ありゃ悟空の滅多に見れねー表情楽しんでやがるな。」
あたしの表情が周、八戒、悟浄にバレてたなんて、この時まったくもって気づかなかった。
そんでもって悟空が不機嫌そうな顔してたのも……。
――――――――……
「面白がってねェでとっとと元に戻る方法考えやがれ」(三→空)
「お前よく自分の頭躊躇なくブッ叩けんな、ぼッ。」
笑いながら悟浄が三蔵に話しかけた瞬間、キレた三蔵は悟空の身体で渾身の一撃を悟浄に放った。
「ケッ。俺と並ぶんじゃねぇ、このウドの大木が」(三→空)
「……悟空の身体で全力パンチがどーゆーモンか分かってんのかクソ猿坊主ッ」
あんな性格の悟空のどこが良いんだと言い聞かせるけど、視界に捉える人物は紛れもなく悟空で、反射的にときめいてしまうあたしはそれこそ重症だ。
どんだけ好きになってんだあたし。