神の扉
□戦いの幕
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「――――悟空……っ。ぜぇ、はぁ、は……」
天蓬の走り行く後姿を見ながら、荒い息を整えようと壁に寄り掛かる金蝉。
まだ数分走っただけであがる息。酸欠でフラフラとする頭を抱え、いつしかうるさい叔母から聞いた言葉を思い出す。
『…お前は、お前はあのチビの、太陽でいられるのか?』
「…俺は何がしてやれる。追いつく事もできねぇのに、―――あいつに」
ドンと壁にあたるように殴り、「―――畜生…!!」と悪態をついてはみたが、晴れない心のもやを紛らわすように、また走り始める。
――――――頼むから、間に合えッ
アイツらはまだ笑っていられるんだ。これからまだ長い年月先まで、アホ面でいられるんだよ!
焦る気持ちとは裏腹に疲れる体に鞭を打ち、足を前に踏み出し続けた。
「闘神哪吒太子、前へ」
その言葉に周りがざわつき始める。
「―――また哪吒軍の御出陣だ」「お陰で俺達も楽できるってモンだ」「ナタク太子様々ってな」と、聞こえる言葉は彼を侮辱する物ばかり。
自分達がのんびりしている時も小さな闘神は闘っているというのに。
「(…どいつもこいつも日和やがって、気にいらねぇな)」
その場に居た捲簾は心の中で愚痴った。とその時、
「なんだこのガキ!?」
「はなせよッ、放せッ」
「こらっ、暴れるな!!」
バアンと大きな音をたて開いた扉と同時に聞こえる幼い声は自分がよく知る声。
「――――哪吒ッ!!」
騒ぎの主が誰なのか捲蓮はすぐに解った。闘神の名をあんな風に呼ぶのは彼しかいないから。
「お前……」
兵士を振り切り放心状態の哪吒に近寄り、彼の肩をがっと掴む悟空は、
「――ウソだよなッ!?」
「!?」
「俺の事殺すなんてウソだよな、哪吒!!」
悲痛な叫びを上げ、それは哪吒の胸に突き刺さり、彼は息を飲んだ。
「何だこの子供は!つまみ出せ!!」
「―――まあ待て」
一部始終見ていた李塔天は、悟空に掴みか掛かろうとした兵士を制止させた。そしてゆるゆると歩み寄り、哪吒の傍らで止まった。
そして小さな子供には絶対に向けない様な、冷たい視線を悟空に向けた。
「余計な事を吹き込まれたようだな、天蓬か?」
哪吒の肩に自らの手を添えた。刹那、哪吒の体は強張り瞳孔が開く。
これから云われる言葉が判っている為に――――
「まあ良い」
そんな息子の様子を理解していながらも、李塔天は無視し哪吒の耳元で悪魔の言葉を囁いた。
「殺せ。今、この場で」
言葉がナタクの体を蝕んでゆく…。
それを看ていた観音の赤い唇が弧を描く。
「止めも救いもしないさ。――これはお前達の戦いなんだからな」
神は見守るだけ、手出しはしない。