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□恋愛相談ポストの危機
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 恋愛相談ポストとは、遠子先輩が中庭の隅っこに不法設置した、“あなたの恋を叶えます。”という謳い文句が書かれたポストの事だ。
 実際に恋の悩み相談が投函された試しは無いし、そもそもこのポストが作られたのは、純粋に恋愛相談に乗るためではない。
「今日こそは甘〜〜〜い“おやつ”を食べられると思ったのにぃー!」
 酷いわ! と勝手に憤慨している遠子先輩は、物語を食べる妖怪だ。
「妖怪なんかじゃありません! わたしは物語を食べちゃうくらい愛してるだけの、ただの“文学少女”です。」
 ぼくが妖怪扱いする度に、遠子先輩はそう主張する。
 その“文学少女”は、この世でただ1つしか無い肉筆の、特にラブラブ恋愛話が大好物で、それを手に入れるために文芸部名義でポストを置いているのだ。
「まったく! 不届きな人がいたものね!」
「不届きなのはどっちですか。無許可でポストなんか設置したくせに。」
「部活動の一端だからいいのよ。」
「ラブレターの代筆のどこが文芸部の活動なんです。」
「あら、じゃあ他にどこの部活が恋に悩んでる少年少女を救えるの?」
「文芸部だって救わなくていいと思います。」
 遠子先輩はぷうっと頬を膨らせた。
「冷たいのね、心葉くん。」
「冷たくていいですから、これを機にあんな事はやめて下さいね。」
 かなり本気で言った言葉に、遠子先輩は激しく首を振って三つ編みでぼくを攻撃し、ぎゅっと拳を固めた。
「そうはいかないわ! わたしのおやつを――いいえ、悩める少年少女達の拠り所を奪った教員に抗議しなくちゃ!」
 ……ああ、また始まった。
 どうしてこの人は、こうも次々と厄介事を生み出すんだろうか。
「行くわよ、心葉くん!」
「何でぼくまで。嫌ですよ。」
「これは文芸部の問題なのよ? 部員全員が一丸となって解決に当たらなくちゃ!」
「だから、全然文芸部の問題じゃありません!」
 
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