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□気紛れなんて言わせない
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「最悪だわ。」
正門に彼の姿を認めた瞬間、思わず踵を返しかけた。
だが、それではまるで自分が逃げているような立場になってしまう。
そんな癪な事はしたくなかったので、やむ無くあたしは櫻井流人に向けて罵声を浴びせた。
「ご挨拶だな。」
さも愉快そうに笑う顔は、先程言った「最悪」を覆す程に不快な気分をくれた。
「また新しい女ができたの? それとも遠子とかに用事?」
他の誰か相手なら言う順序が反対かもしれないが、奴の場合はこれで正しいと確信している。
しかし、
「どっちもハズレ。今日はあんたに会いに来たんだ。」
「デートならお断り。」
間髪入れずに言ってやると、櫻井流人はあたしの腕を掴んできた。
「まあそう言うなって。たまには付き合えよ。」
「たまにも稀にもお断り。おたくと付き合うくらいなら近所の野良猫と駆け落ちするわ。」
「野良……。」
勢いで飛び出した台詞に腹を抱えても、人的な鎖を解く事は無い。さすがね。(褒める気は全く無いけど。)
「いいから来いよ。オレとあんたの仲なんだし?」
「猿と犬ですらありたくないわ。」
どんな形でも、こいつと「仲」があるのは御免だ。
「おたくならいくらでも相手がいるでしょ? 何であたしが……」
「はいはいはいはい。ごちゃごちゃ言ってないでとりあえず来いって。」
「ちょっ……。」
聞く耳持たず、とでも言いたげに、櫻井流人は力づくであたしを門から連れ出した。