坊ちゃんの記録U

□【剣技】
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「フィルさん、聞きたいことがあるんですけど」
「…何だ?」

 じっと、僕は手に持っているスプーンを見ながら言う。今日のお昼ご飯は、僕もフィルさんも炒飯で、フィルさんは食べているものをしっかり食べてから答えた。何だかそれが、フィルさんっぽいなと思う。

「ゲンゲンとガボチャに稽古をつけてたんですよね、フィルさんは剣も得意なんですか?」

 フィルさんの傍らに立てかけられているのは棍だ。棒術と剣術は似たようなものなんだろうか。顔を上げて問えば、フィルさんは頬杖をついて棍を見ていた。

「これでも将軍の息子だからな…大抵の武器は使える」
「…フィルさんのお父さんは剣を使ってたんですよね?」
「あぁ…だから小さい頃は、いつか自分も剣を持つんだって思ってた」
「どうして棍を選んだんですか?」

 その問いに、じっと棍を見つめる瞳が揺らいだ気がして、僕は慌てて取り消そうと口を開く。

「あ、あの」
「雨が……」
「ぇ……?」

 棍からゆっくりとこちらに顔を向ける。自嘲気味に微笑む表情はどこか辛そうで、それでもフィルさんはわずかに瞳をそらして言った。

「雨が、降ったから」
「…あ、め……?」
「未熟だったんだ、俺は。だから…剣は俺の手を離れて人を傷つけた……」

 一瞬脳裏を過ぎったのは、真っ赤な剣を手に立ち尽くしたフィルさんで、小さな体は頭から返り血を浴びていた。それは、才能なのだろうか。けれども心も体も幼いフィルさんには、それは大きすぎる力だ。

「フィルさん……」
「それからいろんな武器を手にして…巡り合ったのがこれだった」

 そう言って、再びフィルさんは棍に視線を向ける。

「でも一番の理由は…俺に棒術を教えてくれたのがカイ先生だったから」
「カイ先生って…トランの…」

 フィルさんは頷いて、今度は僕と目を合わせて答える。

「最初は怖かったんだ、うまく持つこともできなかった。でもカイ先生は本当に強くて、優しくて…俺に自分と向き合う勇気をくれたんだ」
「それで大丈夫なんですね、剣を持っても」
「まぁな、すげー久しぶりだったけど」

 そう言って微笑むと、フィルさんは再び器に視線を移し、食事を再開した。
 僕の知らないフィルさんを知ることができたのが嬉しくて、僕も自然と頬が緩む。でも…フィルさんは将軍の息子だから、僕よりもずっと大変な想いをしてきたと思っていたけど…そんなことがあったなんて。この戦争が終わったら、もっともっと笑顔になるといいな。絶対幸せにするんだ、僕が、フィルさんを。
 心の中で僕は固く決意をして、食事を再開した。


***
過去のおはなし。フィル坊っさま、雨が嫌いな理由その1。詳しい話は、また別で書きたいな。とある日の昼食風景でした。

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