ドラゴンボール
□ZERO―零―
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「よー、バーダック、いるかぁ?」
扉をノックしたのは良い物の、返事など待たずにバタンと扉は開かれる。
ベッドの中でもぞりと、尖った黒髪が動いた。
「……何か用かよ。」
寝起き一番になんで野郎の顔。
そんな不満を隠しもせず、不機嫌な顔に貼り付けたまま、いきなり押しかけた仕事仲間を睨んだ。
扉を後ろ手で乱暴に閉めたトーマは、ニヤニヤと嬉しそうにバーダックの元へと歩み寄った。
「お前まだ寝てんのか?もう昼過ぎだぜ。」
まるで寝起きの恋人を覗き込むように、トーマはバーダックの枕元に肘を突く。
ご丁寧に愛しげな笑顔を貼り付けて。
そういえば昨晩抱いた女がいない、とバーダックは冷えた隣りを感じて思う。
自分が寝ている間に出て行ったかと、名残も感じず、既に顔も朧気な女は、勝手に記憶から排除されて行った。
「トーマ……、おめぇ…酒クセェ…。」
ただでさえ寝起きに野郎の顔を見せられて最悪な気分だってのに、トーマが吐く息の酒臭さに、更にバーダックは機嫌を損ねたようだ。
「おうよ、今し方うめぇ酒にありつけたもんでな。」
「昼間っから……。」
トーマに背を向けて、まだバーダックはベッドでもぞもぞと惰眠を貪っている。
「それがよぉ、誰と飲んでたと思う?」
「知らねぇよ…。セリパか?」
背中越しに適当に返事を返した。
「ちげーよ。聞いて驚け!なんと、朱女衒のばあさんだよ!」
ピクリ、とバーダックの背中が戦慄く。
「……てめー、あんなババアでも美味い酒が飲めるのか。安上がりだな。」
「ババアでも奢りならうめぇんだよ。」
ゴロリ、とバーダックが仰向けになった。
「………あのクソばばぁ、まだ生きてやがったのか。」
天井を見上げる目はまだ微睡んだまま。
瞳に刺さる昼の光が痛くて、腕で目を塞いだ。
「そのクソばばあからお前に伝言だ、バーダック。」
まるで内容を知っているかのように、バーダックの眉間に皺が寄った。
「今日の日没までに家に来いってさ。」
「いかねぇよ。」
さも当然の如く、招待を断る。
「来ねぇと昔のあんなことやこんな事、スラム中に言い触らして回るってよ。あのばあさんならやりかねねぇ。」
クククッと心底面白そうにトーマが笑った。
「……タダ酒はオレへの伝言の駄賃って訳か。」
「まぁそう言うこった。良い駄賃だったんだ。素直に行ってこいって。」
カラカラと笑うトーマを、横目で睨む。
どこかの星の奴等の技みたいに、この苛ついた気持ち全てを丸めて、目から発射出来たなら、目の前の人の良い同僚くらいは殺れたかもしれない。
「トーマ……、後から覚えてやがれ。」
やっと半身を起こしたバーダックは、上半身には何も纏っていなかった。
無駄の無い体躯を堂々と晒す。
その厚い胸元や、逞しい背中に残った、爪痕や薄い引っ掻き傷をトーマは目敏く見つけた。
「女の相手だ。お前にとっちゃ簡単なもんだろう?」
ニヤリと笑って、渋る男の胸の傷をチクリとつつく。
「……そこらの女の方が、よっぽど扱い易いぜ。」
そう言ってトーマの手を払いながら、バーダックは渋々起き上がったのだった。
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