ドラゴンボール
□この小さな星のまん中で
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狭いポッドの小さな窓から宇宙を眺めていた。
ものすごい速さで過ぎ去って行く近くの星々とは対象的に、いつまで経っても位置を変えない遠くの星々にゆったりと視線を這わせる。
チチ―――怒ってっかなぁ……。
あと少しで地球へと辿り着くという中、悟空はチチの事ばかりを考えていた。
神龍に帰る事を拒んでから約一年。
ナメック星での滞在を考えればそれ以上。
チチの顔を見ていない。
帰ったらどんな顔をするだろうか。
あのお日様のような笑顔で出迎えてくれるだろうか。
いや、きっとチチの事だから、鉄拳の一つや二つ飛んで来るだろう。
それからあの良く通る大きな声で叱られるだろうなぁ。
でもきっと、飛び切りうめぇメシを食わせてくれる。
久しく食べていないチチの手料理を思い出し、悟空は今から腹の虫が騒ぎ出すのを感じた。
思い出すのはチチの顔ばかりだ。
怒って膨れる赤い頬。
笑って出来るえくぼ。
顔をくしゃくしゃにしながら流れる綺麗な涙。
そして、己の腕の中でのみ見せる艶やかな瞳。
どれも今の悟空の心を掻き乱して止まない。
あぁ、早く会いてぇなぁ。
会って、飛んで来る拳を受けて、やがて零れるだろう涙を拭って。
抱き締めたい―――。
悟空は宇宙を眺める。
先程から殆ど位置を変えない遥か彼方の眩い星を見つめた。
あの星、パオズ山から見えっかなぁ。
チチも見てんのかな。
そう考えて、悟空はその星の輝きを目に焼き付けた。
帰ったら、チチに聞いてみよう。
目指す青き星はあと僅か。
悟空はそっと拳を握って、その星の上に立つ、掛け替えのない存在の温もりを思い出していた。
目を瞑れば、焼き付けた星が瞼の裏に、鮮やかに浮かぶ。
そこにそっと、願いを唱えた。
(終)
09.7.5 脱稿