ドラゴンボール
□家族、雪のなか
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「何をしている。」
「何って、見ての通りよ。」
「……理解しかねる。」
そう?とブルマはちょっとだけベジータを振り返って、また作業に集中してしまった。
もこもことコートを着込んで、マフラーにすっぽりと埋もれた暖かそうな身体に比べて、耳は真っ赤にかじかんでいる。
ベジータは足に感じる初めての感触を新鮮に思いながら、まだ誰も踏み固めていない新雪をきゅっきゅっと鳴らして、ブルマの背後まで歩み寄った。
せっせと手を動かし何かを作るブルマの手元を覗き込む。
「気になる?」
ベジータを見ないまま、ブルマは彼に問い掛けた。
「………。」
ふん、と視線を逸らそうとした所で、ブルマがくるりと振り向いた。
「はいっ、これがベジータ。」
差し出された手に乗っていたのは、ブルマの両手の平いっぱいに陣取っている大きな雪玉。
しかも二段重ね。
「…なんだそれは。」
「何って、雪だるまじゃない。知らないの?」
「知らん。」
へぇ、とブルマが大して驚いても無いような顔で微笑んでいる。
「こんな物、俺が見て来た星には無かった。」
そう言って、一掴み雪を掬って、パラパラと零した。
「雪、他の星じゃ降らないのね。」
手に持っていた“ベジータ”をそっと雪上に降ろす。
その隣りには、ベジータと称された雪だるまよりも、一回り小さい雪だるまが並んでいた。
「これが私ね。」
ベジータが怪訝そうに片眉を上げる。
「で、これがトランクス。」
大小並んだ雪だるまの真ん中に、小さな小さな雪だるまがちょこん、と置かれていた。
「可愛いでしょ?」
ブルマはふふふっと嬉しそうに、それらを眺めている。
「くだらんな。」
「そう?西の都じゃ雪なんて滅多に降らないのよ。堪能しておかなくちゃ!」
完成した三人家族をちょんちょん、と撫でてブルマは立ち上がった。
「さぁ、次は何を作ろうかしら!ベジータも手伝ってよ。」
「……もうやめておけ。」
ベジータの言い草に、ブルマはムッとする。
「なんでよ。」
そうつっけんどんに返せば、腰に当てていた手をぐい、と引っ張られた。
「お前は夢中になり過ぎる。」
真っ赤に強張った華奢な両手を、ベジータの大きな手の平が包み込んだ。
「何も感じなくなるほどにな。」
いつの間にか氷のように冷たく固く凍えた自分の手に、ブルマはやっと気付く。
「あらやだ…。」
何も感じなかった、冷えきった手に、徐々にベジータの温もりが染み込んでいった。
「もう十分だろう。入るぞ。」
そう言ってベジータは、冷たいブルマの手を引いて屋内へと向かう。
「ベジータ。」
「なんだ。」
「手、かゆい。」
「ふっ、自業自得だな。」
そうベジータは一笑して、二人は仲良くエントランスをくぐったのだった。
広い広いカプセルコーポレーションの庭には、仲睦まじく並ぶ三つの雪だるまが、長らく佇んでいた。
(終)