ドラゴンボール

□丘の秋色
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「うっひゃー!さっみぃなぁ!!」


「悟空さは薄着し過ぎだべ!寒いのは当たり前だ!」


チチの可愛らしい唇からは、ふわふわ、ふわふわ。
白い息が生まれては消えていった。


悟空はそれを見て、わた菓子みてぇだな、なんて呑気に思いながら、寒さに粟立つ両腕を擦る。




「寒いならもっと着てこればいいだ!年がら年中同じ服ばっかり着て。」


マフラーで顎まで埋まったチチが呆れ顔で口を尖らす。


「でもやっぱオラはこの道着が一番だぞ!」





そう言って、悟空は今の季節におよそ不似合いな山吹色の道着を摘んで見せた。

もうとっくに枯れ落ちてしまった筈の色彩が、寒々とした風景の中に紛れ込んでいた。


樹々は枝のみのさっぱりとした装いとなり、空では灰色の薄い雲が太陽を隠している。


二人がいる丘の上に、ツンとした風が吹き去って行った。




それに吹かれて、悟空がプルプルと震える。




「は…はっ……ふぁっくしょい!!」




「あ〜もう、何時までもそのままだと風邪引いちまうだ!!」



もう、と眉を寄せたチチは、今まで自分を暖めていてくれたマフラーをくるくると外す。

それを、鼻を啜っている悟空の首に丁寧に撒いてやった。




「…あったけぇ。」


「だべ?」


ニッコリと笑うチチは、悟空が漏らした一言に大層満足そうだ。




チチと温もりを共有していたマフラーは、悟空のむき出しだった首回りを、即座に暖めてくれる。


チチが自分を暖めてくれたようで、なんだか嬉しい。




「さ、身体が冷えきっちまう前に帰るだよ。」


冷たさに染まった頬を綻ばせて、チチは夫へと手を差し出した。


「ああ。」


悟空がその手を取る。


その意外に冷たい手に驚いた。

よくよく見れば、マフラーを自分に渡した事で、チチの首回りはなんとも寒々しい。


「悟空さ手はあったかいだなぁ!」


気持ち良さそうに、チチは悟空の手を握り返してきた。


「チチ。」


「ん?―――わっ!」






ぎゅ、と悟空の腕がチチを包んで。

先程掛けてあげたマフラーに、チチの顔がぼふっと埋まった。




「ぷはぁっ!悟空さ!?どうしただ!」



悟空は、チチを風に晒さぬよう、自分の胸の内に余す事無く抱き込む。


「こうしてっと二人ともあったけぇだろ?」


にかっと笑ってチチの顔を覗き込む。






「悟空さ………。腕、冷てえだよ。」


ぷぅ、と赤らんだ頬を膨らませれば、“そうかぁ?”などと首をひねって言う。






本当は、あったかい。


熱いくらい。




夫の逞しい腕からは、じんわりと体温が染み込んで来る。




「さぁ、けぇろうぜ!」


ふわり、と浮き上がってしまった悟空に、チチも大人しくしがみつく。




ゆっくりゆっくり舞い上がって行く二人。


それに反して、ちらりちらりと舞い降りて来る雪。


だがしかし、チチの頬へちょん、と降り立った瞬間、その熱に驚くように雪はスッと消えてしまったのだった。




(終)
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