ドラゴンボール

□お星様
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春の日差しが温かい午後。

若葉の隙間から注ぐ木漏れ日に、目を細める。

草や木の香りをふんだんに含んだ風を、悟空はゆっくりと吸い込んだ。


「あーっ、気持ちいいなぁ!」


腕を目一杯広げて、んーっ、と伸びをする。


昼食を終えた悟空と悟飯は、快晴の空を見上げて、散歩へ行こうと決めたのだ。

チチには思いがけない一人の時間。

家事や育児に追われる毎日。

ゆっくりする時間が出来た事に、ほぅ、と息を吐く。

悟空も何となくチチの日頃の多忙を察し、気を遣ってくれたようだ。

悟空にすれば上出来の配慮である。


そして悟飯を連れて、のんびりと歩き出した。

陽光差し込む森の中。そこを抜ければ、野原の向こうに空が見える丘へ出る。

ここで悟飯は思う存分駆け回っている。

蝶を追いかけたり、カマキリと睨めっこしたり。

四つ葉のクローバーを探したり、珍しい花も見つけた。


「おとうさん見て見て!アカハタンポポ!」


「ん〜?どれどれ?」


微笑ましい父子の姿がそこにある。


チチと一緒だと怒られてしまう遊びも、悟空ならばどんどんやらせてくれる。

悟飯もそれを理解していた。
今日は泥んこになっても、川で服が濡れても、止められる事はないのだ。


「おとうさーん!みてみてーっ!」


カマキリの対決に見入っていた悟空は、いつの間にか、離れた所から己を呼ぶ声に、顔を上げた。


丘のてっぺんにぽつんと立っていた、悟空の背丈より幾分高い木。

幾重にも枝分かれした、その木の中腹で、悟飯が笑顔で手を振っていた。


『まぁーっ!悟飯ちゃん!そっただ所で何してるだ!!
危ねぇから木登りなんてしちゃいけねぇだ!!』


チチがいれば間違なく、こんな雄叫びがこだましただろう。


しかし悟空は呑気なものである。


「おーっ!すっげぇな悟飯!そこまで一人で登れたかぁ!」


3歳児の悟飯が、こうも身軽に木登りしてしまう。

悟空がのちに“かなりのリキは持っている筈だ”と確信した所以だろう。


「ふふふっ、まだ登れるよ!」


そう言って、悟飯は器用に枝の股に手足をかけ、あっという間に悟空の目線よりも上へと登ってしまった。


「高けぇ所まで登ったなぁ、悟飯!」


「ボクね、お星様取ってくるんだ。」


「お星様?」


突然の息子の言葉に、悟空はすっとん器用な声を上げる。



「おっ、お星様って、夜に空でキラキラしてるあれか?
ひょえ〜、あんなん取って来てどうするんだ?」


流石の悟空も、夜空の星が、手につかむ事の出来ない物だという事ぐらい知っている。


子どもは、時に思いがけない事を口にする。
ここ数年の子育ての中で、悟空はそれを理解していた。

しかし悟空は満更でも無い。
息子の言葉一つひとつが、面白くて楽しくて、そして可愛らしくてたまらないのだ。

決して否定はしない。

ハハハ、と笑って、悟飯の言葉を促した。


「えっとね、ひとつは宝箱にしまうでしょ。
もうひとつは…う〜んと。あっ!お母さんにプレゼントしたいな!」




片手にひとつ。


両手でふたつ。





悟飯の中での許容範囲は、自分で持ち帰れるだけ。

決して欲張る必要の無い、温かい環境で育って来たからこその発想であった。


悟空は嬉しくなった。
悟飯の素直さに。


母想いの息子に。


自然と笑みが零れた。


「はははっ!そりゃあいいや!きっとかあちゃん大喜びだぞ!」



「えへへっ!!」


木の高みで、自慢気に笑う。
陽光に照らされ、キラキラと輝いていた。




そんな笑顔を、一陣の春風が勢いよく掠めていった。

悟飯の身体を大きく扇ぐ。

木の枝が細かく揺さぶられた。


「わわわっ!?」
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