ドラゴンボール
□ZERO―零―
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不揃いに敷き詰められた石畳の上をブラブラ歩く。
たまに踏み締めた石が沈んで、カコンと音を立てた。
空なんてこんなに細長い物だっただろうか。
光もろくに差さない、品が悪い店が軒を連ねる狭い裏路地を、気は進まないまま足だけを進ませた。
すれ違うのはガラの悪い連中ばかり。
たまに軒下に立つ色めいた女は皆娼婦だろう。
どの娼婦もこの星の女ではなかった。
だとすれば、滅びた星から命からがら逃げて来た者か。または星を転々と売られて来たか。はたまたよほどの物好きか。
気の強いサイヤ人の女などでは無い。
華奢で真っ白い肌をした美しい容姿の者もいれば、自分達とはまるで違う身体をした異形の者まで、実に様々。
皆一様に、甘い声で話しかけて来る。
誘うように彩られた赤い唇、くどい程に匂う香。
視覚にも嗅覚にも無遠慮に入り込んでこようとする彼女らに一瞥をくれてやり、うんざりした気持ちで細く枝別れした路地を通り抜けて行く。
途中、甘えた声で己の名前を呼んで袖を引く女がいたが、バーダックは鬱陶しそうにそれを払い除けて、店の角を曲がった。
名前を呼ばれたと言う事は、一度は買った女だろうか。
今まで、それこそ星の数ほど女を抱いたが。
顔にも声にも、ましてや彼女が纏う香りにも、全く思い当たる者はいなかった。
所詮、欲を満たすだけの女なんてそんなもんだと、事務的に思い棄て、すれ違う男達の酒臭さに顔をしかめた。
やがて路地は行き止まり。
その隅にある薄汚れた石壁。
廃墟では無いかと思う程に蔦が這った壁の前で、バーダックは立ち止まった。
なるほど行き止まりらしく、人の往来も滅多に無いのだろう。
石畳の隙間には、多種多様な雑草がそこを住家と定めていた。
はぁぁ、と腹の底から込み上がる溜め息を盛大に吐いて、ぼりぼりと頭を掻いた。
気が進まない。
実に気が進まない。
気が進まないから、いつまで経っても、蔦の間から主張する鈍く光るドアノブに手を掛ける気にはならなかった。
そもそも、何故こんな気の進まない所に来なければならないのか。
バーダックは先程訪れて来たトーマの顔を思い出した。
今となってはあの人の良い顔が憎々しい。
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