犬夜叉

□色 折々
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寒い寒い冬の候。

久し振りに大地に降り注ぐ太陽に向かって、りんは気持ち良さそうに伸びをした。


朝はもんやりと霧がかっていた景色だが、今は違う。
地面を覆っていた薄氷もすっかり消えて、空からは優しい光が零れてくる。


風はまだまだ冷たくて、幾分裸足の足がかじかんではいたが、久方振りの冬の晴れ間をりんは堪能していた。


「ぽかぽかで気持ち良いねぇ、阿吽!」


おとなしく地面に伏せている彼らの鼻頭をよしよしと撫でてやれば、心地良さそうに目を閉じて喉を鳴らした。

そんな阿吽にりんも凭れて、ふわふわのたてがみに背中を預けながら日向ぼっこをしている。

邪見は既に反対側でいびきをかいていた。




肌を打つ柔らかな日差しは、夏とは違いひどく優しい。
目をつむれば、瞼の裏が赤く鮮明に見えた。




ここ暫くは曇天が続き、鉛の空からは時折塵のような雪が散る。
うっすら積もっては哀れに消え行く雪達を、りんはいつも渋い顔で見つめていた。

一度邪見が尋ねて来た事があった。




『普通子どもは雪を喜ぶんもんじゃないのか?』



りんの事だ。ちょっとした事に一喜一憂し、目敏く季節を感じては、嬉々としてはしゃぐ。

雪が降り出した時も、邪見はそんなりんの姿を見る事になると思っていたのに。
いざ雪が降り出せば、りんは苦い顔で舞い散る雪を見るだけだった。


『だって邪見様…。』


りんは唇を尖らせる。




だって…。




何だかとっても悲しい気持ちになっちゃうんだもん……。




鉛の空から落ちて来る、灰色の雪。


全てが何とも曖昧で。
全てがとても寂しげにに見えた。


こんなの、ちっとも嬉しくないよ………。




『早く春、来ないかなぁ……。』


そうぽつりと、りんは幾度も呟いていた。









そんな事を思い出して、ふぅ、と溜め息をついてみる。

りんは阿吽のたてがみを梳きながら、快晴の空を見上げた。


夏みたいに抜けるような青さではないけれど。

久し振りに見た空の青さがとても新鮮で、暗い雪の憂鬱も薄れるという物。


淡く優しい冬の空を、りんは楽しんだ。




そうやってぼんやりと空を見上げていると、ふと、りんの目を奪う物が舞い散って来る。

りんは我が目を疑った。




快晴の空からちらりちらりと零れて来たのは、真っ白な、一片の雪。

一欠片のみが太陽を浴びて、きらきらと輝きながらこちらの方へと舞い降りて来た。








「きれい………。」

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