犬夜叉

□月影
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満月の光りが、夜の風景に影を浮かべる。

存在する物全てが、くっきりと地面に形を残し、昼間とはまるで違う美しさを醸し出していた。






縁側に面する、襖が開け放された部屋からは、か細い女の吐息が、虫の声に混じって響いていた。




「はぁ………。」


「いつになっても慣れぬな。」


そう言って、りんの濡れる唇をなぞりながら、殺生丸はクスリと微笑む。

まるで不慣れで幼稚なりんの所作を、楽しんでいるかのように。




淡く月光に照らされた殺生丸は、妖艶そのもの。


その美しさに、りんの胸はまたしても鼓動を強めた。




慣れるなんて無理な話。

だって貴方は何時如何なる時も鋭利で綺麗過ぎて。

目が合う度に、震える程に見とれてしまう。




そういう癖なのか、わざとなのか。

恐らく後者だろう。


殺生丸がりんに与える快楽は、行為の度に変化して行った。


その都度りんの良い所を探し当てる指と舌は、大層巧みな物で。


りんは何時も鳴かされてばかり。


どんなにその快楽に抗おうと、結局は溺れてしまう。




「今からそんな様子では、この後、果たしてどうなることやら……。」



「っ!」

そう言って殺生丸は、りんの浴衣の肩を抜いた。


りんの細い首筋から二の腕までが露になった。

咄嗟に胸元を手で押さえ、はだけて行く合わせ目を止どめる。


「殺生丸…さまっ……。」


頬を真っ赤に染めて俯く。

恥じらうりんの姿が可愛らしくて仕方がない。


家臣は、殺生丸が人間の娘の虜となっている事に、動揺する者も少なくないが。

殺生丸は全く気にしない。


己の欲望を、外聞を気にするが為に抑制するなど、殺生丸には必要の無い事。


自分の望むように生きて来た。
何者にも囚われる事なく進んで来た。


己を雁字搦めに出来る者などこの世には存在しない。




唯一人、りんを除いては。

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