犬夜叉

□咲き待ちの里(前編)
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「おぎゃあっ!おぎゃあっ!」




初秋の風吹く、抜けるような青空のもと、村からは元気な産声が上がった。


「よう頑張ったな。母子共々、ほんにようやった。」


「元気な男の子ですよ。」


りんは、産湯を浴びた赤子を楓から受け取り、母となった女の前にそっと差し出す。


「あぁ……!」


女は感動の声を漏らした。


真っ赤に紅潮させた顔を綻ばせ、頬に涙が伝う。


「ありがとう…。」


そう言って見せたのは、それは美しい母の笑み。




その言葉に、りんも満面の微笑みを浮かべた。






女以上にはしゃぎ、嬉し涙を流す夫に一通りの世話を任せ、後処理を終えた楓とりんは帰路に着く。




「りん、楓様のお仕事のお手伝いの中で、お産がいっとう好きです!」


新しい生命が無事誕生したこの時が、りんには嬉しくて堪らない。


「りんもご苦労じゃったな。最近は一人前に仕事も出来るようになって。助かるよ。」


「えへへっ!」


そう笑って、暮れ始めた空を仰ぐ。


腕に持った包みを抱え直すと、使わなかった薬草達がカシャリと音を立てた。





こんな小さな村でも、たまに訪れる祝い事。

年に一人、二人は子どもが生まれる。


しかし新しい命が芽吹いて行く中で、枯れて逝く命も後を絶たなかった。


近頃、ぱたり、ぱたりと人が亡くなって行く。
流行病の類いにでも掛かったのか、と恐れる村人達をなだめ、りんはそんな人達を看取っていた。


老人も、若人も、命は命。

誰かが死ぬのはもう見たくない。

幼き頃に願った思いは今もそのまま。
必死に看病に当たるが、人の命とは儚い物で…。


その度にりんは涙を流した。


生と死、どちらの瞬間でも、人は涙するのだという事をりんは学んだ。




「りーん!!」


「あ…洵太(じゅんた)!」


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