犬夜叉

□天つ空、架ける橋
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外は雨。
貴方と二人、肩寄せ合っていられる一時。


娘の濡れた髪は頬に張り付き、妙な色香が雨に溶け込む。


雨が上がれば、そこには七色の……―――。








ぽつり、とりんは自分の手の甲に冷たさを感じた。

何だろうと見れば、それは雨粒。


空を見れば先程の青空は何処へやら。


風に乗ってやってきた雨雲が、天を塗り込めるようにして広がっている。




やがてぱらぱらと小雨が降って来た。


辺りには雨特有の、土や草の湿った匂いが香る。


りんは、殺生丸が腰を下ろしている葉の茂る大木の元へと駆け寄って行った。




「殺生丸様、邪見様、雨、降って来たよ!」


「んん?なんじゃ、雨か。さっきまであんなに晴れとったのにのう。」


邪見が空を見上げる。
まだ霧雨程度で本降りではないが、雲の暗さから見て、じきに激しく降り出すだろう。




主が腰を上げた。


「―――邪見。」


低い、良く通る声で下僕を促す。




殺生丸も邪見も、濡れたからと言って何ら不都合は無い。


阿吽に至っては、元が龍なだけに、雨に当たるのが大好きなようだ。



困るとすればりんである。


少し濡れただけでも風邪を引きかねない、脆弱な生き物。それが人間。




そんな人間を引き連れているせいか、はたまた、ただ濡れるのは御免、と言う事なのか。


取り敢えず一行は、屋根のある場所への移動を考える。




邪見は阿吽を従え、どこか休める場所が無いものかと、焦った様子で探しに行った。


主の刺すような視線に、殺されかねないと悟った邪見である。




邪見と阿吽が戻って来るまで、りんは殺生丸が佇む木陰での雨宿りを決めた。


殺生丸の横にちょこんと立つ。


二人は何ともなしに木の外を見つめていた。




殺生丸の肩には到底届かない、りんの肩。


それでも二人は並んで立っている。




りんの髪は、先程の霧雨よりも、少し強く降り出した雫によって濡れていた。




つ、と髪の一筋を流れ行く雨粒に目が行った。


一瞬…。
殺生丸は目を見張る。




どこか物憂げに向こうを見やるりんの頬に、雫を伝わせた髪一房がトロリ…と張り付いていた。



いつもの無邪気で真ん丸な目ではなく、少し瞼を落とした瞳に。


にっこり笑った口元ではなく、軽く開いた朱の唇に。


桃色のさらりとした頬ではなく、白さを感じさせる濡れた肌に。




ほんの少しの、色気と艶を見る。




次の瞬間、殺生丸の胸が、ドクリ…と脈打った。
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