犬夜叉

□紙風船を空へ高く
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かごめという女が持って来た玩具は、りんを上機嫌にさせている。

見た事も無い彩りの独楽。鮮やかで皮膚が裂けそうな程に切り揃えられた色紙(いろがみ)。

そして、今りんの手元で跳ねている紙風船―――。




ぽそっ。




「はいっ、邪見様の負けーっ。」


「うぬぅ〜っ!ワシはお前より手が小さいんじゃ!!」


「落としたら負けだもん。もう一回やろ!邪見様っ!」


「付き合っとられるか!
大体こんな子どもの遊びはなぁ…!」


「いくよっ、せーのっ!
ひーぃ・ふーぅ・みーぃ…」




カシャリカシャリと手の上で跳ねる紙風船。

ぎゃあぎゃあと文句を垂れる下僕は気にも止めず、りんは楽しそうに数を数えている。

時折風に煽られて、りんの手から零れそうになる紙風船は、美しい紅の地に、舞い散る桜が描かれていた。


不揃いな拍子を奏でながら、宙を舞っている。

りんの手から打ち上げられる紅のそれを、大樹の根元に腰を下ろした殺生丸が、目の端でとらえた。




ぽそっ。




「はいっ、また邪見様の負けっ!りんの勝ち!」


得意げな顔でりんは笑った。
打ち上げるのを止め、落ちて来た紙風船を、両手でふんわり受け止める。


いつもりんを言いくるめてばかりの邪見を、負かすことの出来る紙風船。
りんは嬉しくてたまらない。


「えーい!!終いじゃ!もうやっておれんわ!」


りんに負けた悔しさを滲ませつつ、邪見はそそくさとりんの元を離れてしまった。


「あーっ!邪見様ずるーい!負けたら今晩の薪拾いだぞって言ったの邪見様だよーっ!」


「分かっとるわい!わしは阿吽と共に薪を集めて来るから、お前はそこで遊んでおれ!
あ、殺生丸様にご迷惑はかけるでないぞ!!」


「はーい!お願いねーっ、邪見様ーっ。」




ぶつぶつと文句を垂れつつも、約束した手前破る訳にはいかない邪見は、渋々阿吽を連れて、森へと消えて行った。


その後ろ姿を、手を振って見送ったりんだが、やがて紅の紙風船に見入ったまま黙り込んでしまった。



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