接吻

□唇なら愛情
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少し開けた窓から、カーテンを揺らす風が入る。

そのたびに白銀の髪は微かに私の腕や首筋をくすぐって行った。


ベッドにもたれて、二人畳にぺったりと座り込んでみる。

穏やかな晴れの午後。




戦国の世の、自然の中の静けさとはまた違った、遠くに街の喧騒の低音が響く部屋。


「みんな今頃何してるかな。」


「さあな。弥勒なんかはまた女のケツでも撫でてんじゃねぇか。」


退屈そうに犬夜叉は言う。
頭の上の耳が、赤く透けて見えた。


「珊瑚ちゃんとケンカしてなきゃ良いんだけど。」


私も、現代の世界の緊張感の無さに溺れて、コテンと犬夜叉の肩にもたれた。

頬にはふわふわの髪。
衣から微かに香る、戦国の風の匂いが鼻をくすぐる。




いつもの、どこか気の休まらないピリリとした空気はない。
いつでも眠りに堕ちてしまえるような気だるさが、犬夜叉を包んでいるのが分かる。


私は少し手を伸ばして、彼の頭を撫でた。
ちゃっかり耳にまで触れながら。


「眠かったら、寝ちゃっていいわよ?」


熱い耳の薄い感触を堪能しながら、彼の瞳を覗いてみる。




「……ああ…。」



そう応えた彼の唇が、ゆっくり私に重なった。







乾いた風と。

遠い喧騒。



柔らかい髪と。

戦国の懐かしい香り。






ベッドにもたれたまま、穏やかな口付けを交わす。


昼下がりのひとときに、なんて幸福な時間。




「ここは、何もない。」


「…なあに?」


ぽつり、犬夜叉が言う。




「ここには、かごめと、かごめの匂い以外、何もない。」




「だから、良い。」




幼子みたいに抱き合いながら、何度も何度も甘い口付けが降ってくる。




空気に溶けるような、優しいぬくもりを分け合って、二人ゆっくりとまどろんでいった。




12.10.10 脱稿
  12.6 改稿

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