春夏秋冬〜五十の調
□煙々、立ち上ぼる
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「わぁっ!積もってる!!」
昨晩から寒い寒いと縮こまっていたりんだが、朝目が覚めて、一夜の宿とした堂の扉を開けると、声音を一転させた。
そのまま白銀に染まる雪世界へと駆け出して行く。
「あっ、こりゃーっ!!そんな薄着で飛び出すでない!!」
続いて邪見も欄干から飛び降りた。
ずぼっ、と小気味良い音を立てて着地する。
「りん!待て〜っ!!…ん?」
足が前に出なかった。
「あはははっ!邪見様埋まっちゃった!」
コロコロ笑って、りんはさらさらの新雪の上を、粉雪を巻き上げながら駆け回っている。
「りんーっ!!」
腹まで埋まった邪見は、唯一動く両手をばたつかせながら、白くけぶる鼻息を荒くした。
そんな様を、堂の扉に凭れた殺生丸が、雪に反射する眩しい陽光に目を細めながら眺めていた。
雪の中を跳ね回るりんが、あたかもうさぎのようで。
目で追うのも億劫な程。
そんなりんだったが、幾らもしない内に堂の方へと戻って来た。
舞い上げて被った粉雪が、りんをきらきらと彩っている。
そのままピタリ、と殺生丸の前で立ち止まった。
「もう、よいのか?」
殺生丸から口を開いた事に、少し驚いたような顔をしたりんだったが、コクリと一つ頷いた。
「うん。足、冷たくなっちゃった。」
駆け回ってはぁはぁと切れる息が白く立ち上ぼって、りんの生命の暖かみを思わせる。
「そうか。」
普段、生きている事とは、こんなにもはっきり意識出来る物だっただろうか。
見れば、りんの膝下は真っ赤に焼けて、すこぶる痛そうだった。
ふう、と小さく息を吐く。
ふわり、と殺生丸の吐息もまた空へと昇って行った。
目を奪われたようにそれを見上げていたりんだったが、ふっ、と急に追いかけていた白煙が目の前に迫った。
「わっ…!」
慌ててがしりとしがみついたのは、殺生丸の肩口。
「殺生丸様…。」
片腕で軽々りんを持ち上げた殺生丸は、何も言わずに己の毛皮でりんの身体を包み込む。
毛皮の温もりなのか、殺生丸の体温なのか。
凍えたりんにはよく分からなかったが、殺生丸に向き直りにこりと微笑んだ。
「殺生丸様も、ちゃんと生きてるね!」
「……どういう意味だ。」
眉を寄せた殺生丸に、りんはへへへっと笑いかけて、舞い上がる吐息をその小さな手に絡めた。
そんな二人の様を、熱いだの寒いだのと零しながら、雪に埋もれたままの邪見が見守っていたのだった。
(終)