春夏秋冬〜五十の調

□烏兎巡りて
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ふわふわ、ふわふわ。

お日様みたいな色したすすき。

風が優しく揺さぶって。

今は羽みたいなりんの足は、そのすすきの上でぷらぷらしてて。

まるですすきと遊んでるみたい。






「ねぇ殺生丸様、からすがみんなお家に帰ってくよ!」


橙に染まった森に、小さな黒色の粒が吸い込まれて行く。

指を差して示した。


りんは今、木によじ登ったまま。

殺生丸様よりも遠くまで眺められるのが嬉しい。


「あっという間にお日様沈んじゃうね。」


先程まで覗かせていた恥ずかしそうな真っ赤な顔が、そそくさと山際へ隠れてしまった。


むき出しの足を掠めて行く風は思いの他冷たくて、冬がもうすぐそこ迄歩み寄っている事をひしひしと感じる。


「すぐ冬になっちゃう。りん、秋好きなのになぁ…。」


「…また来年…。」


「え…?」


殺生丸は、風に紛れるりんの香りを逃さぬよう、深く息を吸う。


「また来年、感じれば良い。」


遠く陽が沈んだ山の向こうを見やる。

今、山に消えた太陽も、明日には海から顔を出す。



一日も、一年も。
何度でもやって来るに違いない。




生きてさえいれば……。




「じゃあ…また来年の秋も、こうやって一緒に居てくれる……?」


貴方と一緒に、大好きなこの世界を感じたいから。




「……この先、ずっとだ。」




生きる限り―――。

世界が続く限り。


ずっとだ。








ふわふわ、ふわふわ。

りんの足下で軽やかに揺れるすすきも、いつかは枯れ果てて。

かさかさ、かさかさ―――。




けれど、また来年。

きっと生い茂る。





そうやってずっと、在り続ければ良い。




橙に濡れるりんの顔に、初冬の風が運ぶ極上の笑みが浮かんだ。




(終)
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